2018/10/05発行 ジャピオン987号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第84回 カヴァノー氏スキャンダル

連邦最高裁判事の容認
MeTooに通じる問題に

9月最後の週末、ニューヨーク・タイムズでよく読まれた記事20本のうち17本が、ブレット・カヴァノー米連邦最高裁判事候補(53)のスキャンダルについてだった。国連総会も、アジアの台風のニュースも完全に吹き飛んだ。
 なぜ、それほど注目されているのか。

承認見込みだった

まず、連邦最高裁判事の定員は9人。過去には、女性の人工中絶の権利から連邦議会の権限の範囲、同性愛者同士の結婚の権利に至るまで、私たちの生活に影響する訴訟案件が「合憲」か「違憲」か、毎年5、6月に集中して判断を下してきた。この時に、多数派、つまり5人以上を占めた判事意見が、最高裁の判断とみなされ、即日に有効となる。

共和党大統領が指名した判事が保守的意見を書き、民主党大統領が指名した判事がリベラル派意見を書くが、近年は、中立的な意見を書くアンソニー・ケネディ判事がいたため、保守、リベラルの判断の割合は、ほぼ拮抗してきた。ところが、ケネディ判事が退任を発表。判事の指名権を持つトランプ大統領が選んだのが、カヴァノー氏だった。

判事の任命には、上院の承認が必要だが、共和党がかろうじて多数派を保つため、カヴァノー氏は、承認される見込みだった。9月半ばまでは。


承認にブレーキ

ところが、カリフォルニア州の教授クリスティン・ブレイジー・フォード氏(51)が、15歳のころ、カヴァノー氏に性的暴行をされかけたとメディアに告発。いきなり、承認プロセスにブレーキがかかった。カヴァノー氏は全面否定したが、9月27日、上院司法委員会で、フォード氏とカヴァノー氏が、議会証言するという異常事態となった。

フォード氏は、好感が持てる凛とした態度だったが、時に声を詰まらせて訴えた。

「(暴行を加えようとしたのは、カヴァノー氏だと)100%、確信している」

「(声を上げようとして、口をふさがれたのは)最も恐怖を感じた時で、その後も私の人生に影響を与えた」

「ブレットに誤って殺されるのかと思った」

これらは、宣誓の下の証言で、嘘をつけば違法に問われる。

一方で、カヴァノー氏は同じ宣誓の下で、「女性には尊敬を持って接してきた」と、告発を全面否定した。しかし、民主党議員が求め、身の潔白を証明する米連邦捜査局(FBI)による捜査を受けるかという質問に対しては、決して答えず、時には沈黙する場面もあった。

この証言の中継は、大学や高校のキャンパスやスポーツバーなどで、多くの人が見入った。筆者もアムトラックで移動中、ストリーミングで見ていたら、隣に座った女性が「今、どうなっている?」と何度も聞いてきた。


求められる品位

「She said, he said」(ああいった、こう言わない)という状況だが、ニューヨーク・タイムズでなぜそんなに読まれているのか。

それは、単純に判事候補をめぐるスキャンダルというだけではない。これは、女性の権利の問題、つまり昨年始まった「#MeToo」運動に通じる話だからだ。性的暴行やレイプに関しては、歴史的に女性の側でトラウマのために告発できないことが多かった。たとえ、警察に告発しても、有罪率は数%という低さだ。

最高裁判事として要求される品位と道徳心は、並大抵のものではない。米大統領が就任の際、「維持し、擁護し、防御する」と神に宣誓する合衆国憲法について、「合憲」「違憲」を判断する立場となる。

しかし、仮にカヴァノー氏がクロで、共和党主導で判事に承認されれば、憲法以前に、「レイプ未遂」という犯罪が看過されるということになる。これは、#MeTooの流れに逆行し、押し戻すものだ。男子高校生が「最高裁判事がやっていいのだから、自分もやっていいんだ」と、女子に対する暴行を正当化するのが目に見えるようだ。

FBIの捜査は現在、1週間という期間限定で実施されることになった。このコラムが届くころには、上院で承認をめぐる採決が行われ、決着がついているはずだ。

カヴァノー氏が承認されるとすると、米国で女性の権利の大きな「後退」が起きるのは間違いない。

カヴァノー氏とフォード氏の討論を報じるウォール・ストリート・ジャーナル紙の紙面。 左上は、MeToo運動の拡大以降、有名人として初の有罪判決を受けたビル・コスビー被告の記事

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

#MeToo

ソーシャルメディア(SNS)などでセクシャルハラスメントや性的暴行の被害に遭った体験をシェア、被害を告発するためのハッシュタグ(SNS内で、#のあとにキーワードを入れることで、検索されやすくなる)、とその運動を指す。

2017年、映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン被告が長年のセクハラ行為を告発され、女優や多くの女性からも同様の被害が報告された。以降もエンターテインメント業界だけでなく、さまざまな業界で、過去にさかのぼって被害を訴える運動に発展している。

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