2018/09/21発行 ジャピオン985号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第83回 USオープン

終わらぬ決勝戦論争
何が争点なのか

日本人とハイチ人のハーフである大坂なおみ選手(日本代表)が、テニスのグランドスラム「USオープン」で、セリーナ・ウィリアムズ選手を破って優勝した。これを書いている時点で、10日以上が経っているが、いまだに決勝戦をめぐるオピニオンがメディアをにぎわしている。何が問題なのか。

最大の争点は、決勝戦で主審を務めたカルロス・ラモス氏がウィリアムズに与えたペナルティーが、「女性差別」だったのかどうか、という点だ。ラモス氏を「私のポイントを奪った。泥棒」と呼んだウィリアムズは、「もっとひどいことを言っても罰せられていない男性選手をいっぱい見てきた」と食い下がっている。


女性差別か否か
擁護と批判に二分

試合直後、ワシントンポストは、彼女を擁護する記事を載せた。

「主審は、女がわめくのに我慢ならなかったから、セリーナを罰したのだ」

しかし、過去にラモスが男性選手を厳しく罰した例などを上げて、ラモス氏を擁護する記事も出ている。女性差別だったのかどうかという争点は、米メディアを二分している。

もっとも納得がいくオピニオンは、かつてのテニスの女王マルチナ・ナブラチロワ氏がニューヨーク・タイムズに寄せたものだ。

彼女は、「グランドスラムの決勝戦で過去に見たこともないようなドラマ」とし、いかに今回の決勝戦が異常なものだったか伝える。しかし、「私もラケットを粉々にしたいと思ったことがあった。でも、子供たちがこれを見ている。ラケットをしぶしぶ握り直したものだ」として、ラケットを破壊したウィリアムズの態度を批判した。

一方、大坂については「試合中、試合後の態度は、感動的だった」とする。さらに選手として「重要な問題は、われわれのスポーツをたたえ、対戦相手を尊重するためにどのような態度を取らねばならないか、ということだ」と強調した。

まとめると、テニスだけでなく、どんな世界でも「女性差別」は、根強く残っている。しかし、「男性に許されているから」として、暴言や違反行為が女性にも許されるべきだという考え方は、間違っている。超人的な集中力を維持した大坂に比べ、取り乱し、間違った考え方に基づいて言葉による攻撃に出たウィリアムズに瑕疵(かし)がある。


日本人にくくりたい
日本メディアの報道

もう一つ、指摘しておきたいのは、大坂の「アイデンティティー」のことだ。日本メディアは、ハイチ人とのハーフである大坂を典型的な「日本人」のくくりにしようと苦労している。でも、日本語よりも英語の方が流ちょうという日本人がいてもいいではないか。

大坂は9月12日、人気のコメディアン、エレン・デジェネレスの番組に出演した。

「賞金を使って車を買ったら?」「ノー、両親に何か買うわ」「あなたは有名なのよ」「ノー!」

そして、セルフィーを一緒に撮ろうとしたデジェネレスの横で、ハー、とため息を漏らし、恥ずかしそうにセルフィーに映った。コートの外の大坂は、頼りないとも思えるほど、か細い声で話し、謙虚だ。しかし、スタジオに集まった聴衆は、彼女の受け答えに爆笑し、 温かい拍手を送った。

出演後、大坂は番組について、「OK。そろそろ地球を離れないと。恥ずかしさのレベルが、限界に達しているから」とツイートした。こうしたかわいらしさや謙虚さこそが、英語で話していても、日本的だと感じさせる点だ。そういういろいろ「ミックス」された大坂を、日本メディアは無理に「日本人」カテゴリーに入れずに、受け入れるべきだろう。

テニスに強く、2カ国語を話し、世界のテニスファンに愛される大坂は、「ハイブリッド」で、日本で大坂のようなプロフェッショナルが増えることを願いたい。

大坂は、ビヨンセのファンであることをツイッターでつぶやいたことがある。決勝後、ビヨンセの母ティナ・ノウルズが、インスタグラムに大坂の写真をアップし、「おめでとう。あなたの能力と礼儀正しさには、驚くばかり」とコメントした。

ビヨンセやノウルズは、異なる人種でもあり、職域も全く異なる。しかし、大坂の良さを見抜いているコメントだ。

日本人女子で初の4大大会優勝を果たした大坂なおみ。写真は大会開催前の記者会見で質問に答える大坂 (Photo by NY Japion)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

US オープンテニス2018決勝

 

US オープンテニスで2回優勝経験を持つセリーナ・ウィリアムズ(米国、第17シード)と、日本人女子初のグランドスラム大会決勝進出を果たした大坂なおみ(日本、第20シード)が対戦。大坂が6-2、6-4でストレート勝ちで優勝を決めた。試合途中で、ウィリアムズのコーチが観客席から指示を与えたとして受けた警告に対して、同選手が抗議。さらにラケットを破損させ2度目の警告を受けると、それに対する抗議が暴言と見なされ、1ゲームのペナルティーが取れらた。表彰式でも観客がブーイングをやめなかったことに対して各メディアは批判的に報じている。

 

あわせて読みたい

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

特集
夏だけ入島できる特別なリゾートとして、ニューヨ...

   
Back Issue 2019
Back Issue 2018
利用規約に同意します