2018/08/17発行 ジャピオン980号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第81回 カーサービスの現実

Uber運転手数制限
過酷な状況是正に期待

 ニューヨーク市は8月8日、全米で初めて、カーサービスアプリ「Uber」の運転手の数を制限する法律を可決した。今後1年間、Uberなどのカーサービスアプリ4社は、新たに運転手を雇用してはならない。これによって、市内の渋滞を緩和するのが狙いだ。同時に、運転手の時給を最低17ドル22セントにすることも法律に盛り込んだ。

 渋滞緩和の他に、運転手間の激しい競争も背景にある。ニューヨークは、タクシーの数も全米一だが、Uberアプリの運転手の数も最大だ。調査によると、イエローキャブ運転手の数は約1万4000人。これに対し、「Uber」「Lyft」「Juno」「Via」カーサービスアプリの運転手は、2015年に1万2000人だったのが、現在8万人に上っている。

 いかに、イエローキャブ運転手の市場をUberなどが奪っているか、簡単に想像がつく。各地の空港で、タクシー乗り場はどこもガラガラで、Uberなどのピックアップ広場は混雑している。イエローキャブ運転手の間では、生活苦が広がっており、今年前半に6人の運転手が自殺している。


過酷な労働環境
ほとんど赤字?

 かといって、Uberなどの運転手の生活が潤っているわけではない。筆者がUber運転手の過酷な労働環境を知ったのは2015年末のこと。友人のフォトグラファー/アーティストのモーガン・フリーマンが、家賃を払う足しに、Uberの運転手になったが、ほとんどもうからず、2カ月で「撤退」したためだ。

 彼は初日、ジョン・F・ケネディ国際空港に最初の客を運んだ。客が降りた途端に女性がいきなり乗り込んできた。

 「タクシー運転手が間違えて、違う空港に連れて来られた。ラガーディア空港までいくら?」「本当は乗せちゃいけないんだけど、もし本当に急ぎなら、20ドルで」

 親切心を見せた彼に、女性乗客はいきなり警察バッジを見せた。「逮捕します」。

 手錠はかけられなかったが、彼は車から降ろされ、車両はレッカー車に持っていかれた。警察は書類にサインすれば「重罪」を許すとして、彼を釈放。さらに彼は、ニューヨーク市タクシー・リムジン委員会(TLC、イエローキャブの規制機関)に、空港の規則違反に対する罰金1000ドルを払わなくてはならなかった。そこには「おとり捜査」に引っ掛かった約100人のUber運転手がひしめいていた。彼らによると空港だけでなく、市の中心部でもカメラをぶら下げて観光客を装い、「友人との約束に間に合わないし、タクシーもつかまらない」と言って、飛び乗ってくるそうだ。

 「Uberは長時間労働を強いる仕組みになっている。Uberには売り上げの40%超を取られて、経費を引く前に1日300ドルしか残らない。そこから週700ドルの車両のレンタル代、1日80ドルのガソリン代や高速道路代を払うと、ほとんど赤字同然だ。だから、何も食べず、トイレはペットボトルにして、皆、1日20時間以上働こうとしている」(フリーマン)


労働環境改善へ
各社は規制に反対

 筆者は、Uber、Lyftを使うが、運転手に聞くと皆、同じ悩みを抱えている。皆、二つか三つのアプリを利用し、お客が早くつかまるアプリに対応する。ある時はUber運転手としてお客をピックアップし、次のお客はLyft運転手としてピックアップするという具合だ。中には、イエローキャブの運転手をやっている人もいた。

 こうした状況をみると、運転手の数を制限し、最低時給を保証するというのは、理にかなった規制ともいえる。ニューヨーク市でこの規制がうまく機能すれば、他の大都市のモデルともなるだろう。一方で、Uberなど各社は、この規制に反対している。

 「この規制によって、ニューヨーカーがタクシーを捕まえにくくて苦労していた時代に逆戻りする。特にマイノリティーのコミュニティーなどが犠牲になる」(Lyft)

 Uber運転手らの労働環境は、以前から批判の的になっていた。これを規制という形で改善しようというのが、ニューヨーク市の試みだ。Uberなど各社の対応も当然、必要だ。

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

配車サービス

ウェブサイトやアプリを使って提供する配車サービスは、Uber、Lyft、Juno、Viaなどがある。
最大手UberはUber ThecnoligiesInc.(2009年設立、本社・サンフランシスコ)が運営。世界70カ国、450都市で展開している。配車サービスは、一般人が自分の(あるいはレンタルして)車両を使って、空き時間にサービスを提供する仕組み。
ニューヨーク市では運転手になるにはタクシー・リムジン委員会発行のライセンスの取得が必要。

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