2018/07/06発行 ジャピオン974号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第78回 民主党下院議員予備選

変化を起こすのは選挙
無名の女性活動家勝利

 「投票に行ったらビールただ」

 近所のバーでこんな看板を見た。6月26日、全米各地で、11月の中間選挙に向けた予備選挙が行われた。

 翌日、全米から注目されたのは何と、ニューヨークク・クイーンズの一選挙区だった。

 無名の女性活動家アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏(28)が、民主党下院議員予備選挙で、10期当選の重鎮ジョン・クローリー氏(56)を得票率58%の大差で破ったからだ。CNNによると、コルテスの選挙運動資金は、クローリーの10分の1だったが、勝利した。


有権者が求める
「変化」を象徴

 「投票所に夜遅く行ったら、19歳の男の子たちに『投票したよ!』と言われました。彼らが私の有権者パワーです。世論調査ではなくて、結局は人なのです!」

 全国テレビ番組に出演し、勝因を聞かれたコルテス氏は、こう答えた。

 コルテス氏は2016年大統領選挙で、民主党から立候補した若者に人気のバーニー・サンダース上院議員(76)の選挙を支援し、「国民皆保険」「大学授業料の無料化」など、サンダース氏と同様の民主社会主義的な公約を掲げた。その後、活動家、教育家として地域で活動していたが、1年前までは生活費のため、タコスレストランでバーテンダーをしていた。ユーチューブに出てくる彼女の自宅と思われるアパートも小さく、いかにも移民が住んでいそうなものだ。

 「決意を固めれば、どんな出身とか関係ないということよね」と同僚バーテンダー(ニューヨーク・ポストによる)。

 コルテス氏のビデオによると、出馬理由は、「誰が有権者の代表か」という問題に尽きる。

 「母はプエルトリコ出身、父はブロンクス出身で、お金持ちでもない私のような女性が、選挙に出るべきではないかもしれない。でも、同じ議員を10期20年も選出してきて、一体誰が変化を引き起こせるのか考えた時、選挙に出ようと思った。私たちの生活では、家賃は上がる一方で、賃金は上がらない」

 「だから、民主党員でも、企業からお金を集め、差し押さえ不動産から利益を得ている人々は、子供を私たちの学校にやらないし、私たちと同じ水道水は飲んでいないし、私たちの代表ではない」

 10期20年のうち14年も無風で当選していたクローリー議員は、こうして敗退した。冷静に考えれば、28歳の政治経験がないコルテス氏が、政治家になるべきではない、という有権者もいるに違いない。

 しかし、ヒスパニック系女性が「誰が誰の代表か」と訴えて、白人男性を選挙で破った構図は、あまりにも有権者が求める「変化」を象徴している。

 全米ニュースでは、彼女のような「サンダース型」「プログレッシブ(進歩的)」候補者が、11月中間選挙の「台風の目」になるのではないか、と早くも騒がれ始めた。

 これに対し、民主党トップのナンシー・ペロシ少数党院内総務は、冷静に反論した。

 「コルテス氏のケースは、ニューヨークの非常にリベラルな一選挙区だけで起きたことです」


女性候補者が増加へ
変化求め超党の流れ

 一方で、もう一つの注目点は、女性候補の躍進だ。AP通信によると、今年11月に行われる中間選挙では、下院・上院議員、州知事から地方自治体議員に至るまで、過去最高の女性候補者が出馬する見込み。今のところ、下院議員選挙で309人、上院議員で42人が立候補する予定で、今後まだ増える見込みだ。

 女性へのセクハラ・性的暴行をなくしていこうという「#MeToo」運動の影響は大きい。しかし、男性が支配してきた世界を、女性のソフトパワーで変えていこうという流れは超党派で、共和党からも多くの女性候補者が出馬する。

 筆者の近所の選挙オーガナイザーによると、6月下旬という夏休みではなければ、もっと投票所に行く人が増えて、コルテス氏はさらなる大差で勝利しただろうと分析する。とにかく、変化を引き起こす一歩は、選挙に行くことだ。

バーの軒先に掲げられた「投票に行ったらビールただ」の看板

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏

6月26日に行われた民主党下院議員予備選挙でニューヨークの第14議会地区から初出馬し勝利した。11月の中間選挙で民主党候補として、共和党候補者と選挙で争うことになる。プエルトリコ出身の母親とブロンクス出身の父親のもとブロンクスで生まれた。ボストン大学で経済と国際関係を学んだ。2016年の大統領選の際は、民主党予備選で大統領候補として立候補したバーニー・サンダース上院議員の選挙キャンペーンスタッフとして活動。民主社会主義者のメンバー。政策には国民皆保険制度、米移民税関捜査局の廃止、公立大学の授業料無料化などを掲げている。

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