2018/06/15発行 ジャピオン971号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第77回 米朝首脳会談

歴史的な首脳会談で
何を引き出すべきか

 これを書いている6月11日、月曜日の東部時間午後8時に、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談が開かれる。世界に数少ない独裁者、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は初めて、トランプ米大統領に会う。

 北朝鮮の完全な非核化を目指す会談がなぜ歴史的なのか、ポイントを抑えておきたい。


北朝鮮の脅威
非核化とは?

 「非核化」というが、まず、北朝鮮はどれほどの核兵器・ミサイルと、世界がおびえる兵器を持っているのか。ウォールストリート・ジャーナルが専門家や当局の見方をまとめた。

①核分裂性物質は、16〜60発の核兵器を作れるだけの量を保有し、すでに10〜20発を完成させている公算が大きい
②ミサイルは、70発に上る可能性がある
③神経ガス「VXガス」を含む化学・生物兵器を保有している可能性もある

 日本は、広島と長崎に2発の原爆を投下された唯一の国だが、隣の北朝鮮が、これだけの核兵器・ミサイルを保有している可能性があることは、覚えておかなければならない。

 これがさらに、脅威となるのは、以下の理由もある。

①金正恩委員長が、独裁者で、大胆不敵、冷血な指導者であること。異母弟、金正男(キム・ジョンナム)氏をVXガスで昨年暗殺したとされる
②昨年初めて、米東海岸を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行った

 それでは、トランプ大統領は、北朝鮮を武装解除し完全非核化するために、何を取り付けなければならないのか。ジャーナルによると、非核化には膨大な時間と労力が必要となる。

・どの程度の兵器を保有しているのか、徹底的に調査する。ミサイル、弾頭、核分裂性物質、兵器の製造・研究拠点を網羅する

・生物・化学兵器の廃棄も確認させ、同様に製造・研究拠点を網羅する
・その上で、核分裂性物質などを国外に搬出する。製造拠点などは破壊する
・核分裂性物質の国外搬出の際、一部を国内に秘匿していないか確認する
・これらのプロセスのために、北朝鮮が国際査察団を受け入れる

 北朝鮮側は、その見返りに制裁解除を求めている。同時に、米軍の朝鮮半島撤退と、米軍が韓国防衛のために核兵器を使わないことも要請している。武装解除プロセスを受け入れる代わりに、制裁の部分解除を前倒しにすることを要求する可能性もある。


勝ち負けにこだわる
トランプのディール

 これに先立つ「根回し」は、金正恩委員長の方が、念入りに行った印象が強い。3月以降、中国の習近平・国家主席に2度も会った。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とも2回会い、トランプとの米朝首脳会談を提案し、朝鮮半島統一の期待感をも高めた。マイク・ポンペオ米国務長官とも会い、ポンペオは「生産的だった。非核化で歴史的なディール(取引)を結ぶ本物のチャンスの兆しがある」と述べた。

 冷血な独裁者という印象を払拭するかのように、にこやかに柔軟な態度で、会談に接した。韓国MBCニュースが行なった調査で、会談後、金正恩を肯定的に評価する人が、以前の調査の10%から78%にまで跳ね上がっている。

 これに対し、トランプは、G7で各国首脳と会ったものの、シンガポールに早めに到着するためにG7を途中で退席した。通商問題を巡り激しく対立した。ホワイトハウスの側近には、彼が好きなディールで成功するために、金正恩の人となりを徹底的にリポートするように求めたという。ただ、トランプは、勝つか負けるかというディールが好きで、互いに譲歩して成果を得るというスタイルは好まないのが懸念される。

 北朝鮮がどれほどの核兵器やミサイルを保有しているのかを知ることが、非常に重要だ。北朝鮮は、情報を渡す前に過去の核合意を何度も反故(ほご)にしている。それを克服して、非核化プロセスに入れるのか。

 米朝首脳会談の結果をみて、このコラムが評価の助けになることを願っている。

米朝首脳会談前夜を大体的に報じる新聞各紙

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

金正恩

北朝鮮の第2代最高指導者、金正日・総書記を父に持つ。同氏死亡に伴い、最高指導者の地を継承した。現在、朝鮮民主主義人民共和国の第3代最高指導者。朝鮮労働党委員長、朝鮮民主主義人民共和国国務委員長、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員、朝鮮労働党中央軍事委員会委員長、朝鮮人民軍最高司令官を務める。今年4月27日に、北朝鮮の最高指導者として初めて韓国を訪問。文在寅・韓国大統領と11年ぶりの南北首脳会談を行い、朝鮮半島の完全な非核化合意を盛り込んだ「板門店宣言」を発表。以降、訪朝した王毅・中国外相、マイク・ポンペオ米国務長官、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とも会談。段階的な非核化を議論している。

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