2018/06/01発行 ジャピオン969号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第76回 ワインスタイン容疑者の逮捕

「#MeToo」が変える
これからの司法

ハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン容疑者(66)が5月25日、マンハッタンの警察署に出頭し、レイプや性的暴行の容疑で逮捕、訴追された。

罪状認否で裁判所入りする同容疑者は、後ろ手に手錠をかけられ、誇らしげな二人の警察官に挟まれ、真っ青な、半ば放心したような顔つきだった。
「警察官を誇りに思うわ」と、友人の女性警察官がこの場面を見て、こう言った。

世界的な「#MeToo」運動につながり、数多くの地位ある加害者が、各界から追放されるきっかけとなった「ワインスタイン現象」。彼が手錠をかけられたことは、大きな意味がある。時間はかかるが、起訴され、裁判で有罪となれば、さらに他の加害者が司直の手にかかるきっかけになるだろう。

彼の逮捕がなぜ、それほど意義があるのか、整理してみよう。


逮捕の意義

まず、80人を超えるとされる世界中のモデルや女優の犠牲者にとっては、「最初の勝利」だろう。

ニューヨーク市警とマンハッタンの検察が世界中で合同捜査し、身柄を確保する逮捕に至った。今回の直接の容疑は、二人の女性が性的暴行をされたと訴えている事件。警察と検察は、逮捕をきっかけに、他の被害者も証言してくれることを期待している。アンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトロウら人気女優も被害を訴えている。

第2に、セクハラやレイプ、性的暴行は、証拠が少なく、有罪に持ち込むことが難しいにも関わらず、逮捕したことは、警察・検察にとっても大きな成果だ。

今回の逮捕の指揮をとった一人、サイラス・バンス・ジュニア・マンハッタン地区検事長は過去に、苦い目にあっている。2011年、国際通貨基金(IMF)専務理事でニューヨークを訪れていたフランス人政治家、ドミニク・ストロス=カーンを強姦未遂容疑で逮捕したものの、後に起訴を取り下げた事件だ。

しかし、大物コメディアン、ビル・コスビー被告(80)をレイプなどで訴えた裁判で、同被告を有罪とする評決が4月26日、下された。判決は、最大で約30年の禁固刑におよぶ見込みだ。原告の女性らが泣き崩れる場面が、テレビで何度も映し出された。2015年ごろから続いていた裁判は、一度は評決不能となったが、コスビーほどの有名人が、困難とされるレイプ・性的暴行で有罪になった意義は大きい。マンハッタン地検にとっても、弾みとなっただろう。

第3に、「カウチ・キャスティング」(役を与える代わりにカウチでセックスを強要するハリウッドの習慣)といった、地位がある加害者が、弱い立場の者を犠牲にする習慣などがなくなっていくきっかけになるのは、確実だ。そのようなことをすれば、手錠がかかることが今回はっきりした。


変わるべき司法

この先、起訴、裁判と長い時間がかかるだろう。警察と検察はすでに、ロサンゼルス、カナダ、欧州で80人以上の犠牲者をインタビューしている。まずは起訴にこぎつけ、裁判で有力な証言をしてくれる被害者や目撃者を増やして行く方針だという。

ワインスタイン容疑者は、罪状認否で「合意済みのセックスだった」と無罪を主張。裁判所と弁護士は、保釈金100万ドルで、「自宅逮捕」とすることで合意した。パスポートも提出し、GPS機能がついた金属製バンドを足首につけて過ごすこととなる。有名人の裁判に強い、高額報酬の弁護士もつけた。

コスビー被告が有罪になり、ワインスタイン容疑者が逮捕され、この先、レイプや性的暴行についての告発、立件にさらに弾みがつくことが期待される。

そして、高い弁護士を雇える立場にある有名人加害者が、裁判で有罪となるよう司法の場も変わっていかなくてはならない。

「#MeToo」運動の拡大、ワインスタイン容疑者の逮捕で、映画界で役を得るために弱い立場の者が犠牲になる習慣はなくなっていくことが期待される

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

ハーヴェイ・ワインスタイン

ニューヨーク出身。66歳。映画プロデューサー。1970年代から弟のボブらとコンサート運営を手掛け、70年代後半に映画製作会社、ミラマックスを創立。80年代、90年代に「パルプフィクション」「恋におちたシェークスピア」「グッドウィルハンティング」などヒット作を数多く手掛けた(会社は93年にディズニーに売却。以後も社長を務めている)。2005年にミラマックスを離れ、自身の会社、ワインスタインカンパニーを設立した。2017年10月に複数の女性からの性的暴行などの被害の報道を受け同社を退職。その後も被害を訴える女性が相次ぎ、80人以上にもおよんだ。マンハッタン地検は、5月25日の逮捕は、2人の女性をめぐる別々の事案に対する容疑だとしている。

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