2018/05/18発行 ジャピオン967号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第75回 トランプ氏の外交

中間選挙見据えた
中東、北朝鮮外交

このコラムを書きながら、テレビ画面に映る二つの対照的な現場を目撃している。

米国は5月14日、在イスラエル大使館をエルサレムに移転した。

開館式典では、イスラエルのネタニヤフ大統領が「平和が訪れる」と、演台を何度も手でたたき、興奮している。しかし、同じ瞬間、大使館移転に抗議するパレスチナ人とイスラエル軍が衝突し、軍の発砲でパレスチナ人50人以上が死亡。画面では、人々がけが人を運んでいる姿が映っている。

トランプ大統領とネタニヤフ大統領が、「歴史的瞬間」と呼ぶこの時、誰かの血が流れている。

トランプ外交 目立つ動き

トランプ氏は6月、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長とシンガポールで、歴史的な初首脳会談をする。それに先立ち、トランプ氏の外交面における以下の大きな動きが目立っている。

・北朝鮮からの米国人解放
・イラン核合意からの撤退
・イスラエルの大使館をテルアビブからエルサレムに移転

スパイ容疑などで北朝鮮の労働収容所に拘留されていた3人の米国人の解放は、米政府が初首脳会談前に、強く要求していた。

会談への地ならしといえるが、見逃してはならないのは、トランプ氏が米国人解放をツイッターで最初に発表したことだ。ツイートによって、ショー的要素があった、トランプ氏が3人を出迎えたシーンをテレビで見た視聴者以上のフォロワーに浸透している。トランプ支持者は、ツイートを見て、テレビをつけた人も少なくないだろう。

次にイラン核合意からの撤退だ。合意は2015年に成立した。イランは、核兵器開発を行っていた。それを抑止し、世界の監視下におけるという唯一の合意を、トランプは反故にした。理由は、明白だ。イラン核合意に、イスラエルが強硬に反対しているためだ。イスラエルは、シリアでイランと小競り合いを繰り返している。米国が合意から抜けたことで、不安定な中東の紛争、さらには戦争への可能性を高めたと批判の声が上がっている。

さらに、米大使館のエルサレム移転だ。これまでは、各国大使館があるテルアビブに米国も大使館を置いていた。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教と三つもの宗教の聖地であるエルサレムは国際社会では、イスラエルの首都とされていないからだ。しかし、ユダヤ教徒の国家イスラエルは、首都だと主張し、それをトランプが「そうだ」と容認し、大使館を移した。

イランの核合意撤退と大使館の移転は、国際社会の合意に反した形になり、中東の状況をさらに混乱させることになる。英仏など米国の同盟国は、これに強く反対している。

国際秩序乱しても 自分の地位を安定

海外の盟友や国際社会を失望させてまで、トランプ氏はなぜ、これらの外交政策を進めたのか。それは、誰のためでもない。自らのためだ。11月には中間選挙があり、上下院の共和党多数を維持したい。また、再選のためには、主な州の知事も共和党で固めておきたいだろう。選挙では、親イスラエル派のユダヤ人やその支持層であるエバンジェリスト(福音主義者)派が、重要な役割を果たす。
核合意撤退も大使館移転も国外で起きていることだが、トランプ氏にとって国内の彼らの支持をつなぎとめておくことが、最大の狙いだ。

エルサレムの大使館開館式典のテレビの画面に戻ると、それが妙に整合性を示している。ネタニヤフ大統領が「ドナルド・トランプ」「イラン核合意撤退」という度に、客席からは大歓声と拍手が沸き起こる。まるで、トランプ氏の選挙集会にいるかのようだ。

ニューヨーカー誌は、トランプ氏の外交政策は、「感情」や「直感」に頼り過ぎていると批判している。しかし、トランプ氏の中では、筋が通っている。国際社会を不安定にしてでも、自らの地位を安定させたいのだ。

エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、その帰属をめぐり争われてきた

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

エルサレム問題

1947年、国連のパレスチナ分割決議で、エルサレムは国連管理下とされた。しかし第1、3次中東戦争を経てイスラエルがエルサレムを占拠し、全域を首都と宣言した。国際社会はこれを認めず、多くの国がこれまで大使館をテルアビブに置いてきたが、昨年12月、トランプ大統領は、エルサレムをイスラエルの首都と認定。イスラエル建国70周年に合わせ、14日、在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転し、パレスチナ、アラブ諸国から反発を受け、EUからも批判されている。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
バッグス・バニーやトムとジェリー、そしてディズ...

   
Back Issue 9/14/2018~
Back Issue ~9/7/2018
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント