2018/02/02発行 ジャピオン952号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第68回 体操連盟元医師の性的虐待

最高175年の禁固刑
有罪判決が持つ重要性

 150人に上る女性・女子に性的暴行を与えた米体操連盟の元チームドクター、ラリー・ナサール被告(54)に、最高175年の禁固刑を命じる判決が下りた。性的暴行、虐待を行った場所は、世界中のアスリートが緊張を高めて集まる五輪会場も含まれている。

 裁判は、女性への暴行・セクハラをやめようと訴えかける「#MeToo」運動が高まる前から開かれていたが、女性、両親、弱い立場の人にとって、これほど嫌な事件はない。しかし、被告への判決は、正義が生きていることを示し、話題を呼んだ。

被告の見せ掛けの反省
裁判官が厳しい態度

 元体操女子の五輪選手マッケイラ・マロニーさんが、虐待を受けたのは、わずか15歳の時。代表チームのキャンプで、事件は起きた。父母は同行しておらず、睡眠薬を与えられ、目が覚めた時は、性的いたずらの最中だった。

 「その夜は、死んでしまおうと思いました」と、彼女は公判で証言している。

 「信頼を裏切り、決して消えることのない〝心の傷〟を残した」

 同被告の虐待を最初に告発したジェイミー・ダンスツチャーさんも証言台に立ち、「あなたは、図々しくもシドニー五輪の私の部屋で、私のベッドの上で虐待した」と述べた。

 悪質なのは、彼が五輪チームのドクターだっただけでなく、ミシガン州立大学の女子体操とボートのドクターも務めていたことだ。公立の大きな大学で、犯罪行為が何十年も表面化しないでいた。虐待は、診察室でも続けられた。ベストスコアをひたすら追い求める若いアスリートが、相談に行くと、体に触られ、性的虐待を受けるという最悪の状況だ。

 最高175年の禁固刑を言い渡したローズマリー・アキリナ裁判長は1月19日、名言を残した。

 「被告に対する死の宣告に署名した」

 また、同裁判長は、これに先立ち、ナサール被告からの書簡を読み上げた。その内容は、7日間に及んだ被害者たちの証言が長過ぎること、メディア向けのサービスで、証言は間違っているという苦情だった。

 ナサール被告は、判決言い渡しの前にこう言っていた。

 「あなたがたの言葉を死ぬまで心に刻み付ける」

 しかし、それが本心ではないことが、裁判長宛の苦情で明らかになったわけだ。裁判長の言葉が厳しかったのも無理はない。

 まさに、「正義」が生きていた、と感じさせる瞬間だった。日本では、女性ジャーナリストに性的暴行をした疑いで、準強姦罪で男性記者に対し出ていた逮捕状が、執行の直前に撤回されるという事件が起きている。逮捕状まで出ていたものが、反故にされるというのは、聞いたことがない。

泣き寝入りの被害者
救済方法探る必要性

 もう一つのポイントは、今回の有罪判決が持つ意味である。

 現在、多くのセクハラや暴行の告発で、プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン、テレビアンカーのチャーリー・ローズから上下院議員まで、多くの加害者が現役から追放された。しかし、驚いたことに、多くの加害者が、自分の罪を認めていない。

 また、被害者のうち、強姦や虐待をされた場合は、刑事事件としての捜査が進行している。しかし、体を触られる、裸体を見せられる、無理やりキスされる、といった被害を受けた女性も、心的ダメージを受けている。さらには、関係を拒否したために解雇されたというような被害者は、生活まで脅かされたことになるが、犯罪ではない限り、刑事事件にはならないし、裁判で勝つことも難しいだろう。

 こうして、泣き寝入りしている女性や、あるいは同性愛者などの弱者が多くいることを忘れてはならない。今回の判決で、少なくとも犯罪があれば、有罪が下ることが決定的となった。

 今後は、それ以外のセクハラ被害者が救済される方法を、社会全体が探っていかなくてはならないだろう。

先月各地でトランプ大統領への抗議や男女格差の是正、女性の正当な権利などを訴える行進「ウィメンズマーチ」が行われた。写真はミシガン州州都のランシングでの行進の様子

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

米体操連盟性的虐待事件

元米体操連盟のドクター・オブ・オステオパシーで、ミシガン州立大学でも女子体操チームの理事で、チームドクターも担当していたラリー・ナサール被告に対し、ミシガン州ランシングの裁判所は先月24日、最低40年、最高175年の禁固刑を言い渡した。

 

2016年10月に最初の告発がなされて以来、米代表チームの選手を含む150人以上の女性が性的暴行を受けたとしてナサール被告を訴えていた。  同被告はすでに児童ポルノ所持で有罪(禁錮60年)となっており、女性アスリートに対して治療とみせかけて性的虐待を行ったとする訴えで10件の有罪を認めていた。

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