2017/12/01発行 ジャピオン944号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第64回 大物アンカーの解雇

セクハラ行為で解雇
米社会の厳格な判断

 ネットワークテレビ局最大手CBSは11月21日、有名アンカー、チャーリー・ローズ氏(75)を解雇した。8人の女性が、同氏にセクハラを受けたと訴えたワシントン・ポストの記事が20日に出されて、わずか1日というスピード解雇だ。

 記事が掲載されて数時間後には、長寿番組「チャーリー・ローズ・ショー」を配信していたPBS、ブルームバーグが配信を停止。CBSは、「非常に不快で容認しがたい行動」が明らかになったためとして、朝の「CBS This Morning」メーン・アンカーからローズ氏を解雇した。

 ポストによると、ローズ氏の部下として働いていた8人の女性がオンレコの取材に応じ、1990年代〜2011年にかけて、太ももや下腹部を触られたり、後ろから抱きつかれたり、不適切な電話をかけられたと証言した。また、仕事場に使っている複数の自宅で、女性らが仕事をしている最中、ローズ氏は、シャワーを浴びて全裸で歩き回ったりした。

安全な環境の確保重要

 CBSニュース部門のデービッド・ローズ社長の社内向けメールは「セクハラはあってはならない」と決然とした内容だ。

 「チャーリーはわが社のニュース部の報道に重要な貢献をしてくれた。しかしこの組織でもどの組織でも、安全でプロフェッショナルな職場環境を確保することほど大切なことはない。誰もが最善を尽くすことができる、支援してもらえると感じる職場環境づくりが何より重要だ。この会社もそういう場所でなくてはならない」

 「かつてはそうではなかったと、そういう話はよく聞かされた。そして過去を正すことは誰にもできないかもしれない。しかし、以前は容認されたかもしれないことは、決して容認するべきではなかった」と、テレビ業界トップとして、セクハラ行為に「厳罰」を与える姿勢を示した。

 チャーリー・ローズといえば、バラク・オバマ前大統領や投資家ウォーレン・バフェット氏、世界の首脳を相手に、落ち着いた突っ込んだインタビューをすることで有名だ。

 テレビ番組に送られるエミー賞を何度も受賞し、2014年には、タイム誌に「最も影響力のある100人」に選ばれた。1991年に放送開始の「チャーリー・ローズ・ショー」は、誰もが彼の下で働きたいと思い、セクハラやパワハラを告発できないでいたのは、ポストの記事からも分かる。

日米の状況の違い

 今回のCBSの解雇措置は、日本の状況を見ると、スピードがあって厳しいと痛感させられた。日本では、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、TBSの元記者を準強姦容疑で訴えたが、東京地検が不起訴不十分とした。伊藤さんは、彼女の訴えがマスコミでは扱われないことや、日本の司法システムでは、強姦の被害者が十分に救済されないと訴えている。

 「CBS This Morning」の他の女性アンカー、ノラ・オドネルさんは、ローズ氏が解雇された後、放送中にこう批判した。

 「今回の件は、捜査があるでしょう。これは、終わらせなければならない。(ローズ氏の行為は)間違っている」

 昨日まで隣に座っていた間柄でも、セクハラは「間違った行為」とし、容赦はない。

 ローズ氏の辞職にまで及んだ一連の「セクハラ告発」は10月、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴィイ・ワインスタイン氏(65)が、十数人の女優やモデルを暴行・強姦したとするスキャンダルがきっかけだ。同氏も、自らが共同創立したワインスタイン・カンパニーから解雇された。

 また、ドラマシリーズ「スタートレック」に出演する俳優アンソニー・ラップ氏(46)が14歳のころ、俳優ケビン・スペイシー氏に性的暴行を受けたと告発。スペイシー氏は主演していた、ネットフリックスの大人気政治サスペンスドラマ「ハウス・オブ・カード」のシーズン6から降板され、事務所の契約も切られた。

 ビジネス・インサイダーによると、「ワインスタイン効果」で訴えられた大物は、ダスティン・ホフマンなど世界で35人に及ぶ。

 日本だけが、セクハラは「無視できる」として、告発が起きない空白地帯になっているようだ。

2016年のタイム誌の「最も影響力のある100人」のガラ式典に出席したチャーリー・ローズ氏

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

ワインスタイン効果

今年10月5日にニューヨークタイムズ紙が、映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が過去30年間にわたり、女優や自身が創設したミラマックス、会長を務めていたワインスタイン・カンパニーの女性従業員らに対して、性的嫌がらせ、性的暴行、強姦を行った疑いがあり、これまで8件の金銭的和解をしていたことを報じた。NBC、ニューヨーク誌も被害を訴える証言を報じ、80人以上が同氏からのセクハラ被害を訴え出た。この動きを契機に、各界でのセクハラ告発が続出し、エンタメ業界、政界、ビジネス業界にまで波及している。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント