2017/11/17発行 ジャピオン942号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第63回 大統領選から1年

二つの集会から見る
深まる米国の分断

 昨年の大統領選挙から、1年がたった。不動産王トランプ氏が当選してから1年を振り返る特集が、メディアで取り上げられた。私は、1年をきっかけに開かれた二つのデモに行ってみた。

言動、政策に反対
反トランプ派集会

 11月4日土曜日、冷え込むタイムズスクエアに約1000人が集まった。「トランプ・ペンス体制は、消えるべきだ」と題する反トランプ派市民のデモだ。移民の入国を禁止したり、女性を差別する、これまでのトランプ氏の言動に反対するため、あらゆる人種の人や女性、若者が多く集まった。

 メイシーズに勤めるというヒスパニック系のチェルシーは、親友と二人連れで来て、スマホで盛んに写真を撮っていた。

 「トランプ氏、ペンス氏の存在は、私が生まれ育ってきた環境を全て否定するものなの。あらゆる国から来た近所の移民家族や、学校の友人がいるから、今の私があるし、アメリカがある。それを否定する政権が存在するのが、信じられない。あの選挙が1年前にあったことを忘れてはいけないと思った」

 親友のロクサナもこう言った。

 「1年前に、通りに出て、友人と抱き合って、泣いたわ。あの悔しさを忘れない。だから、11月7日の特別選挙には必ず行かないと」

 ニューヨークは、リベラル派の市民が圧倒的に多い。それだけに、1年前のトランプ氏の勝利に、多くの人が失望していた。筆者は、タイムズスクエア近くに午前2時ごろまでいたが、ぼう然と立ち尽くす人、抱き合って泣く人、バーから出てきて「民主主義は終わった、グッドバイ、アメリカ!」と酔って叫ぶ人がいた。

 それを振り返ると、約1000人の集会は、多いと見るのか、少ないと見るのか、判断はつかない。しかし、全米200カ所で、同じタイトルの集会が開かれていると、主催者は言っていた。

保守への批判を危惧
トランプ支援派集会

 もう一つの集会は、11月9日、5番街のトランプタワー前で開かれていた。こちらは、トランプ支持者が開いたもので、「当選1年を祝う」集会だ。現場に行ってみると、参加者は、わずか十数人ほどだった。警察が集会用の鉄柵を1ブロックに渡り設置していたが、全くのスカスカで、4日の集会のように報道陣や多くの警官も全く姿が見えなかった。

 集まっていたのは、白人の中年男性と、ヒスパニックの女性たち。「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」の赤い野球帽をかぶった白人男性に、話を聞こうと近づいた。

 「ニーハオ」

 「いや、中国人ではないんです」

 「そうか、フィリピン人か、韓国人か、うーん、いずれにせよ、アジア人だ!何か用か」

 こういう会話は、反トランプ派のデモでは、絶対にあり得ないだろう。相手にするのをやめて、ヒスパニック系の女性マリアに近づいた。

 「私は、大統領を支持しているわ。彼がしていることは、すべて素晴らしいと思うの。子供が3人いるけれども、この国の将来を考えると、不安になるので、大統領に仕事をして欲しいの」

 「なぜ、不安なのですか」

 「保守に対する攻撃が激しくて、言論弾圧が子供たちの学校でも起きている。以前は、そんなことはなかった。保守でもリベラルでも、同じ意見でしょう。だから、一番下の子がいじめにあわないように、カトリック系の私立学校に入れたの。リベラル系のメディアは、フェイクニュースばかり流すし、本当に子供の教育に悪い環境ができているのよ」

 確かに、「保守」に対する言論批判は、トランプ氏をサポートし続けたピーター・ティール氏も指摘している。有名ベンチャーを支援してきたベンチャーキャピタリストだが、彼のような有名人だけではなく、普通の子供にまで、そうした現象が起きているのであれば、深刻な状況だ。

 二つの集会を見て、思った。「米国の分断はますます深い」と。誰かが当選して、それに反対したり、祝ったりする集会が1年後に開かれたことがあっただろうか。肌寒くなる事実だ。

11月9日にトランプタワー前で行われたトランプ支持派のデモ。参加者は保守への攻撃の激しさを危惧していた

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

大統領選から1年

昨年の大統領選から1年たった11月7日、地方選挙が行われた。ニューヨーク市長選では現職、ビル・デブラシオ市長(民主党)が共和党のニコル・マリオタキス州下院議員を破り再選を果たした他、ニュージャージー州知事選では民主党のビル・マーフィー候補が共和党のキム・ガダーノ副知事を破った。バージニア州でも共和党エド・ギレスピー候補を、民主党のラルフ・ノーサム候補が破るなど民主党が躍進。同選挙は来年の中間選挙の前哨戦と位置付けられているため、各メディアは、反トランプの潮流や民主党復調の兆しと報じている。

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