2017/09/15発行 ジャピオン933号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第59回 大統領の支持率低下

 米フロリダ州を直撃した大型ハリケーン「イルマ」の影響で、上陸してから2日経った12日現在も、数百万世帯、つまり同州の3分の2が停電に見舞われている。

 地元電力会社によると、洪水と、道路や施設付近の倒木で、復旧作業に思うように着手できない。このため、多くの人が、ハリケーンが去った後のセ氏30度を超える気温の中で冷房もなく、夜は真っ暗、料理もできない状態に置かれている。そして、いつまでそれが続くのか分からない。

災害は逆転の好機
トランプ氏の行動

 イルマの前には、ハーヴィーがテキサス州を直撃したばかり。ところが、トランプ大統領は、これらの自然災害を支持率を上げる「好機」とみて、次々と思いもよらない行動に出た。

 テキサス州には2回飛び、集まった人々をみて、開口一番「なんてすごい群衆なんだ!」と言ったため、「選挙集会と間違えている」と批判を浴びた。ツイッターでは、クリントン、ブッシュ、オバマ歴代大統領が、被害を受けて絶望し、涙を流している人々を抱きしめている災害現場の写真が、あっという間に広がった。「これが、大統領がすべきことだ」と。

 次にトランプ氏は、身内の共和党幹部や議員を驚がくさせた。「ハーヴィー」の被害救済法案に関して、トランプ氏がライバルの民主党とがっちり手を握ったからだ。共和党は、被害救済法を、債務上限を1年以上の延長とする措置とのセットにしたかった。政府の支出を切り詰めることが党是だからだ。しかし、トランプ氏はホワイトハウスの会合で、債務上限の延長を「3カ月」とした民主党の案を支持し、合意した。寝耳に水の共和党幹部は、ぐうの音も出なかった。

 しかし、トランプ氏が政敵に味方したことで、被害救済資金の法案はスピード可決した。それが、トランプ氏の狙いだったに違いない。

 米メディアによると、トランプ氏が会合に臨む前に、民主党と手を握ることを考えていたかどうかは怪しいという。債務上限の延長は、次のような交渉段階にあった。「1年半」(共和党)↓「3カ月」(民主党)↓「1年」(共和党)。そこで、トランプ氏がいきなり「3カ月」に軍配を上げた。「取引成立」だ。トランプ氏は、小さな政府と緊縮財政を柱にする共和党の伝統を足で踏みにじり、「マン・オブ・ディール」(取り引きの男)としての本領を発揮した。

 ある共和党議員は匿名で、こう指摘した。

 「武器を民主党員に与えて、共和党員を人質に取らせたようなものだ」

DACA打ち切りに
大手企業が猛反発

 トランプ氏の支持率は、低迷の一途をたどっている。各種世論調査で支持率は30%、不支持は60%に上る。

 特に、政権が「子供の時に親に連れられて不法入国した若者らの強制送還を猶予する措置(DACA)」を打ち切ると発表したことで、全米で反対デモが起きた。DACAは、オバマ政権が打ち出したもので、保護措置を受けている「ドリーマーズ」は全米で80万人に上る。DACAの生みの親、オバマ前大統領は「残酷で自滅的な決定だ」と非難。フェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「残酷だ」、アップルのクックCEOも「アップルは彼らと共に戦う」とツイッターで表明した。ドリーマーズを雇用している企業やスモールビジネスにとっては、深刻な問題だ。

 DACAは、実はすぐに打ち切られる訳ではない。トランプ政権は、議会に丸投げし、6カ月以内に措置の改訂を求めている。しかし、ドリーマーズを、6カ月後、何が起こるか分からないという不安のどん底に追いやった。

 9月4日、ダウンタウンで開かれた「ファイト・フォーDACA」のデモでは、人々が「ノー・ヘイト、ノー・フィア、移民はウェルカム!」と声を上げた。

 しかし、DACAの行方とともに、そこにはトランプ氏に対する「怒り」「嫌悪」が渦巻いていた。それがデモに参加した人々を結び付けていた。それを目の当たりにすると、ハリケーン救済で「裏技」を使ったとしても、大統領の支持率浮揚につながるかどうかは疑問だ。

9月4日に開かれた「ファイト・フォーDACA」のデモには2000人が参加した

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

DACA

DACA(Deferred Action for Childhood)とは、2012年6月からオバマ前大統領が大統領権限で導入した制度。幼児期にアメリカに到着した不法移民への滞在延期措置。導入時点で、いくつかの条件を満たせば2年間は強制送還されず、その間の就労も許可される。更新も可能。

条件は、制度導入時点で①31歳未満、②16歳未満でアメリカに来た人で、③学校に通学中であったり、高校を卒業、また米軍や沿岸警備隊から名誉除隊を受けた人。さらに重大犯罪で有罪となっていない人など。

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