2017/09/01発行 ジャピオン931号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第58回 バノン首席戦略官の解任

下野した方が恐ろしい
大統領の敵に宣戦布告

 ホワイトハウスのスティーブ・バノン首席戦略官が、解任され、「下野」した。

 極右サイト「ブライトバート」会長と、極右のセレブリティーだったが、昨年の大統領選挙で、ドナルド・トランプ氏に選挙対策本部のトップに抜擢された。トランプ氏が大統領に当選すると、首席戦略官としてホワイトハウス入りするという、異常な事態に。「バノンをクビにしろ」という看板が、市民のデモには必ず踊るようになった。

しかし、バノン氏のホワイトハウス解任で、筆者はさらに不安を感じた。これでホワイトハウスの外、つまり全米で、極右のリベラルに対する戦いが広がることにならないかと。

ブライトバートに復帰
「トランプの敵と戦争」

 ホワイトハウスがバノン氏を解任する発表をした数時間後、同氏は、前職だった「ブライトバート」会長へ復帰すると発表し、過激な「宣戦布告」をブルームバーグ・テレビに語った。

 「自分は、トランプ(米大統領)のために、トランプの敵と戦争を始める。キャピトル・ヒル(連邦議会)やメディア、米経済界にいる、トランプの敵とだ」

 一方、極右、つまり白人至上主義者やクー・クラックス・クラン(KKK)、ネオナチの思想に傾倒する人々が8月12日、南部バージニア州シャーロッツビルに集合し、人種差別に反対する市民と対立する暴動に発展した。人種差別反対派の女性一人が、命を落とすと、全米に衝撃が広がった。

 当日、トランプ大統領が「いろいろな側」を非難するとして、白人至上主義など人種差別主義を名指しで否定しなかったことで、米国内は「大統領はただただ間違っている」(ニュースサイト「Axios」)と騒然となった。

 逆に、極右は、自分たちがトランプ氏に暗黙の支持を得たと、溜飲を下げた。

 人種差別に反対するデモは、全米都市に広がり、8月26、27日の週末も騒然とした。

 そこに、バノン氏という「極右」の思想家として最高位、つまりホワイトハウス入りを果たした人物が、下野する。絶妙のタイミングではないか。

トランプ陣営入りで
ページビューが急増

 バノン氏は、極右のセレブであるばかりでなく、華やかな人生を送ってきた。ハーバード大ビジネス・スクールで修士を得ると、 米金融大手ゴールドマン・サックスで企業の合併・買収(M&A)を担当し、その後、西海岸でドキュメンタリー映画などを製作するようになる。「ブライトバート」の創立者と意気投合すると、「リベラル派が支配するメディア」に戦争を挑むと、同サイトを率いた。

 昨年、トランプ選挙陣営入りして以降、ブライトバートもトランプ氏の選挙を踏み台に、急成長した。昨年は、米国内のアクセス数で年間29位にまで浮上、現在でも63位と、政治的マイノリティーのサイトとしては好調な順位だ。昨年は、20億超と驚異的なページビューを記録した(オンライン調査アレクサ・インターネットによる)。

 一方、バノン氏は、ホワイトハウスで、人種対立・排斥を煽る政策を進言してきた。これが「バノンをクビに」という看板が多く見られた理由だ。

 バノン氏の存在は、米国の「分断」をあおる象徴だった。移民阻止のためメキシコとの国境に壁を作るという公約、また、イスラム教徒の多い国の旅行者の入国を全面禁止するといった大統領令が、代表的な例だ。

 しかし、 排外主義と反対のグローバリズムを支持する穏健派で、トランプ氏の長女で大統領補佐官のイヴァンカ・トランプ氏、その夫で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏との対立が増していた。連邦議会も「敵」で、共和党穏健派の「謀反」で、オバマケア(オバマ前大統領の医療保険改革制度)の改廃が廃案になった。バノン氏が、伝統的な穏健派、メディア、経済界といった米国の支配層に対し、「宣戦布告」した理由はここにある。

 米メディアによると、同氏は、極右の視聴者のためのテレビネットワーク局を設立する計画を友人に漏らしているという。保守系のFOXテレビがわずか20年ほどで、米国で最も見られるチャンネルに成長していることを考えると、極右テレビの成長も非現実的ではない。

シャーロッツビル事件後、サブウェイヒーリングが始まった。

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

スティーブ・バノン氏

バージニア州ノーフォーク生まれ。63歳。バージニア工科大学卒業後、ジョージタウン大学大学院で安全保障論で修士号、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。海軍に入隊し17年勤めた。ゴールドマン・サックスM&A部門勤務の後、メディア専門の投資会社バノン株式会社設立(のち売却)。映像プロデューサーなどを経て、ブライトバート・ニュース・ネットワークの経営権を引き継ぎ会長に就任。昨年、大統領選挙でトランプ陣営の選挙対策本部長に起用され、同氏当選後、首席戦略官と大統領上級顧問に就任。8月に解任された。

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