2017/06/16発行 ジャピオン920号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第53回 コミー元FBI長官証言

米国の歴史的な日
日米制度を再考察

 米国のトランプ政権と日本の安倍政権は、同じような「メディア攻撃」「既存システム不信」の発言を繰り返しているが、見比べると、米国の方がまだマシだ、という気がする。トランプ大統領に対しては、議会や司法当局によるチェック&バランスが機能している。ところが、日本は与党が政権と一緒になり、「独裁」への道とも思われる状況だ。

 例えば、安倍晋三首相は、米国であれば辞任するしかないと思ったことが何度もあった。昭恵夫人が、学校法人「森友学園」に対し「寄付」として現金を渡したと、籠池泰典学園理事長(当時)が参院予算委員会で証言したときだ。さらに、学校法人「加計学園」の獣医学部新設に絡み、前川喜平・前文部科学事務次官が官邸の関与を含む内部文書の存在を告発した時も、「これは辞任だな」と思った。しかし、安倍首相と与党は、前川氏の証人喚問を拒否。日本の国会は、霧を晴らすために証拠や証言を集めようにも、証人喚問さえできない。

証言で厳しく糾弾

 これに対し、トランプ大統領に解任された米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー前長官は6月8日、上院情報委員会で証言した。そして、彼は、世界で最高の権力者トランプ氏に対し、「嘘をつく可能性があった」「(FBIが仕事をしていないという発言は)嘘だ」と、厳しく糾弾した。

 株式市場は、コミー証言にサプライズがなかったとして上昇したが、彼の気持ちになってみると、衝撃的な証言だった。一つの例をあげよう。コミー氏の冒頭証言(前日に発表)の中にこの下りがあった。

 今年2月14日、ホワイトハウス大統領執務室で情報当局幹部によるブリーフィングの後、トランプ氏はコミー氏と二人だけで話したいと皆に告げた。コミー氏は、トランプ大統領の選挙陣営が、昨年の大統領選挙でロシア政府と協力して投票結果に影響を及ぼしたかどうかを捜査している当局トップだ。つまり、マフィアのボスが、突然警察本部長と二人きりになりたいと言ったようなものだ。(但し、トランプ氏自身が捜査対象になっていなかったことは、証言にも含まれている)。

 その異常な要請に、コミー氏の上司であり、トランプ氏が任命したセッションズ司法長官でさえ、しばらく執務室でうろうろしていた。また、プリーバス大統領補佐官も、途中で執務室のドアを開け、会談を早く終わらせるように促したほどだ。

勇気あるコミー氏

 トランプ氏は、過去の側近である大統領補佐官(国家安全保障担当)マイケル・フリン氏へのロシア疑惑の捜査について「彼はいいやつだ。これ(=捜査を)見送って欲しいと思う」と、コミー氏に言った。

 トランプ氏が「~と思う」と言ったのが、命令のように取られて、司法妨害に当たるのかどうかという質問が、上院議員からあった。コミー氏は、こう答えている。

 「私は56歳だ。世の中の清濁を見てきた。しかし、相手は、アメリカ合衆国大統領だ。ただ圧倒されて、これは指図だと理解した」

 さらに、このやり取りについて、コミー氏はメモを残したものの、FBIのごく一部の幹部の間だけでシェアした。一般捜査員が知れば、大統領の命令と理解し、捜査に悪影響が及ぶ可能性を排除したためだ。

 かように、コミー氏は、心臓が縮みあがるような接触を、トランプ氏と持った。しかし、宣誓のもと、委員会で勇気ある証言を行った。

 一方、一般に、日本がとっている議院内閣制というのは、政権と与党が、都合の悪いことを隠蔽しやすい、つまり、大統領制よりは「独裁」が生まれやすい制度だとされている。しかし、日本でこれほど不透明な政治が可能だったことがあるだろうか。

 森友学園問題、加計学園問題、そして米国のロシア疑惑問題の調査が、同時進行しているのは、私たちにとっては、逆にいいことかも知れない。政治制度や市民がどうやって政権を監視できるのかを考えるチャンスでもある。

 コミー証言があった8日は、米国の政治史においても、歴史的な日となったはずだ。

首都ワシントンの土産店。意外に現職大統領トランプ氏のドールが目立たない

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

コミー前FBI長官

1960年、ニューヨーク州ヨンカーズ生まれ。バージニア州のウィリアム・アンド・メアリー大学、シカゴ大学法科大学院を卒業。弁護士として働いた後、ニューヨーク南部連邦地方検事、ニューヨーク南部管轄連邦検事、連邦司法副長官などを歴任。副長官退任後、ロッキード・マーティン社などの顧問弁護士、コロンビア大学法科大学院の上級調査研究員。2013年にオバマ大統領から第7代FBI(連邦捜査局)長官に任命された。今年7月にトランプ大統領から解任された。6月8日に米上院情報特別委員会の公聴会で証言した。

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