2017/05/19発行 ジャピオン916号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第51回 FBI長官解任劇

トランプ氏独裁的決断
自由主義旗手の座陥落

 「米国は、世界の自由主義(Freeworld)のリーダーではなくなった。今は、ドイツがリーダーだ」という声を最近よく聞く。

 どういう意味だろうか。背景は、トランプ大統領の政権が発足したものの、トランプ氏の決断が、あまりに常識を外れて、自由主義に反し、独裁的だからだ。自由主義と独裁は、相容れない。

 例えば、5月9日のジェイムズ・コミー連邦捜査局(FBI)長官の解任劇だ。自由主義に反するのは、第一に、捜査権を委ねられた国会最高の司直当局であるがために、独立と中立が保証されるべきFBIのトップを、透明性のない理由で解任した。第2に、FBIは、トランプ氏の選挙陣営とロシア政府が共謀して、昨年の大統領選挙に手を加えたかどうかを捜査中だった。

感情的・突発的な
トランプ氏の決断

 ニューヨーク・タイムズは、解任の瞬間をこう伝えた。

 「コミーFBI長官は9日、西海岸のロサンゼルスに出張し、職員に話をしていた。その瞬間、後ろにあったテレビに〝FBI長官、解雇〟のフラッシュが流れた。長官は笑って、面白いいたずらだな、と言った。すると彼の側近が、背後をウロウロし始め、隣の事務室に移るようにと長官に耳打ちした。長官は話を切り上げ、職員らに握手をして、隣の部屋に移り、正式に自分が解任されたことを知った」「コミー氏に、ホワイトハウスのトランプ大統領から電話はなかった。ワシントンで、トランプ氏のボディガードが、7ブロック離れたFBIに、解雇を告げる書簡を届けた。しかし、受取人は、いなかった」。

 「こんなことは、長い議員生活で見たことも聞いたこともない」と、ベテラン議員が口々にコメントした。

 トランプ氏は1月にも、サリー・イエーツ司法長官代行を突然解任した。法の番人である司直当局者を解任するなど独善的な大統領の姿勢を「ニクソニアン」と呼ぶ。ニクソン元大統領は、ウオーターゲート事件の捜査の最中、陣頭指揮に当たっていた特別検察官を解任している。「ニクソニアン」という言葉が、大統領に就任してから、メディアにこれだけ多用されることは、かつてなかった。

 トランプ氏が独裁的な決断をするのは、いくつかの理由がある。①上下院の共和党議員の信頼・サポートを得ていない②ホワイトハウスの幹部スタッフや顧問を信頼せず、親しい外部の人間の意見を聞く傾向が強い③産業界も、トランプ氏の政策に懐疑的なため、サポートしていない—などだ。このために、トランプ氏は、感情的で突発的な決断に至りやすい。

議員も問題視する
閣僚の独裁的態度

 トランプ氏は、コミー元長官解任についての批判が収まらない2日後の11日、昨年の大統領選や連邦議会選の不正に関し調査し、報告する大統領諮問委員会の設置を定める大統領令に署名した。不法移民などがクリントン民主党候補や民主党議員に「何百万人も投票した」というのが、トランプ氏の言い分だが、これも独裁的である。さらには、自分の当選の正当性すら疑われる可能性がある。それでも、大統領令を打ち出した。

 トランプ氏が信頼する閣僚も、かつてはなかった独裁的態度をとっており、連邦議員に問題視されている。

 例えば、セッションズ司法長官は、自らがロシア政府の幹部と接触があったことが就任後に暴かれたため、いわゆる「ロシアゲート」には、関与しないという声明を出した。しかし、これを書いている最中に行われている新FBI長官の面接を、セッションズ長官が行なっている。そのFBI長官が、ロシアゲートを監督するにもかかわらずだ。

 独裁がまかり通らず、政治の場で自由と独立が守られる、さらに司法、言論、報道の自由も保証されるというのが、「自由主義」である。米国は、その旗手ではなくなった。

 市民の生活にその影響は出るのか。間違いなく、じわじわとダメージが広がるだろう。移民や女性、弱い立場の市民の「自由」が奪われないように、私たちも油断してはならない。

ブルックリンのトランプ氏の壁画には、最近ペンキが投げつけられた

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

コミーFBI長官解任

9日、トランプ大統領は、ジェイムズ・コミー連邦捜査局(FBI)長官を解任した。解任理由は、大統領選を戦った、ヒラリー・クリントン元民主党大統領候補のメール問題に関して、取り扱いが不適切だったというもの。コミー氏は解任された後も機密情報や捜査内容について発言を制限される。民主党は解任に至る経緯について同氏の議会証言を要求していたが、16日に同氏は出席を見合わせると議会に伝えた。大統領は、FBI長官を罷免する権限、後任を決定する権限を持つが、トランプ氏が選んだ候補は、上院で過半数の承認を得る必要がある。

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