2017/04/21発行 ジャピオン912号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第49回 トランプ政権の動きの背景

アメリカファーストは
トランプファースト?

 シリアに対するミサイル攻撃、北朝鮮への威嚇、イスラム国(IS)への大規模爆風爆弾兵器(MOAB)攻撃と、矢継ぎ早に、海外に対する軍事行動を決断した。選挙戦中は、「米国は、積極的に外に出ない方が良い」というナショナリズムで有権者をひきつけた。しかし、一連の決断は、ブッシュ元大統領時代のタカ派的な政策を踏襲した形だ。

 しかし、その背景には、「トランプ・ファースト」が見え隠れする。シリアのアサド政権が、サリンを含む化学兵器を使用し、空爆した結果、ぐったりとなった子供の写真が、テレビで流れた。双子の息子を失い、呆然とする父親の姿が、違う角度から何度も撮影され、世界中が驚いた。これを見て、心を動かされたのが、トランプ大統領自身でもある。

「無実な子供、無実な愛らしい赤ん坊が犠牲になった」

 トランプ氏は4月6日、珍しくエモーショナルな面を記者会見で見せた。

軍事行動の動機に
身内の意見影響か

 もちろん、トランプ氏は、軍事顧問とも重ねて会合を開き、米国が取るべき攻撃を三つに絞り込んだ。

 化学兵器の空爆から、わずか57時間で、米軍は6日、シリアのアル・シャイラト空軍基地を、駆逐艦からの巡航ミサイル「トマホーク」59発で攻撃した。用意した60発のうち、1発は不発。軍事顧問が示した三つの選択肢の中で、限定的な規模の小さい方の攻撃だったが、連邦議会にも国連にも通知せず、先制した。

 しかし、トランプ氏の決断には、過去の政権にはなかった異常な点があった。それは、身内の意見が影響を及ぼしていることだ。長女イヴァンカ・トランプさんが「(化学兵器による空爆は)心を痛め、怒りを感じる」とツィートし、トランプ氏に攻撃を促したことを英国メディアが確認している。イヴァンカさんの夫で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏も、「大統領であれば、攻撃をすべきだ」と進言した。

 大義名分は、「米国は、化学兵器の使用を許さない」となっている。また、トランプ政権は、即時即断のリーダシップを国内外に見せつけた。しかし、攻撃しないという選択もあったうち、攻撃を選んだのに娘と娘婿の影響があったのは、異常だ。

気になる今後の
決断スタイル

 また、朝鮮半島をめぐる軍事的緊張も高まっている。トランプ氏は、原子力空母「カールビンソン」を中心とする空母団を朝鮮半島近海に向かわせた。米韓連合司令官を兼任しているブルックス在韓米軍司令官は、一時帰国の予定をキャンセルした。朝鮮有事となれば、一気に動く米軍2万8000人に加え、韓国軍63万人も待機している。

 「北朝鮮は、今やニューヨークやワシントンも射程距離に入る大陸間弾道ミサイル(ICBM)も開発しています。北朝鮮問題は、今やアジアに限定されたものではなく、米国に対する脅威でもあるのです」

 保守系テレビFOXニュースの女性アンカーが、トランプ政権が、朝鮮半島に圧力をかけている背景をこう語った。

 米国は、北朝鮮によるICBMの完成は、超えてはならない一線=「レッドライン」と定めている。北朝鮮は、まだICBMの試射をしていない。しかし、トランプ氏は、今のうちから武力行使をちらつかせて威嚇し、ICBM発射実験、さらには6度目となる核実験をさせないようにしているというのが背景だ。まさに、これもアメリカ・ファーストだ。

 ただ、軍事専門家は、北朝鮮への攻撃は、当面ないと見ている。なぜなら、韓国ソウルに在住する米市民10万人や、東京に住む米市民に避難などの勧告が出ていないからだ。

 恐れなくてはならないのは、北朝鮮問題にとどまらない。トランプ氏の一連の決断のスタイルが、核兵器使用にも適用されることだ。米政権内で歯止めのシステムが構築されなくてはならないが、イヴァンカさんやクシュナー氏の存在と影響力は、非常に気になるところだ。

イヴァンカ・トランプさんは、ドナルド・トランプ大統領のシリア攻撃を実施したという内容のツイートにリツートで賛辞を送っている。(著者撮影)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

イヴァンカ・トランプ

ドナルド・トランプ大統領の長女で現在35歳、三児の母。大統領アドバイザー。母は実業家のイヴァナ・トランプ氏(ドナルド・トランプ氏とは1992年に離婚)。ペンシルベニア大学卒業後、不動産会社勤務を経て、トランプ・オーガニゼーション社入社。不動産開発・買収部門で手腕を発揮した後、アパレルやジュエリーブティックブランドを立ち上げた。今年1月には、トランプ・オーガニゼーション社や自身のブランドの経営から手を引くと発表。3月、無報酬で大統領に助言するアドバイザーになると発表。夫で、不動産開発会社オーナー(すでに辞任)のジャレッド・クシュナー氏(36歳)は大統領上級顧問に任命されている。

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