2017/02/03発行 ジャピオン901号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第44回 新政権始動1週間

トランプ大統領は
なぜ移民が嫌いか

 トランプ大統領のホワイトハウスが始動し、就任から1週間後の1月28、29日の週末は、各地が混乱模様となった。

 トランプ氏が、イスラム圏7カ国の市民や難民の米国入国を一時禁止する大統領令に署名したからだ。各地空港では、対象国からの旅客が拘束され、空港ターミナルはそれに抗議する市民が集まった。

 ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏は、すかさずツイートした。

 「JFKの第4ターミナルに集まろう」

 米メディアによると、空港の職員も混乱していた。拘束されたイラク人に、弁護士と接見させようとした民主党議員が、J・F・ケネディ国際空港の米税関・国境警備局(CBP)担当者を呼んで接見を迫ったところ、彼には判断ができなかった。

 「われわれも、他の皆と同様、暗闇の中にいる」と担当者はロイター通信に語った。

入国禁止命令に
海外からも批判

 市民だけでなく、海外の首脳や閣僚からも批判を浴びたトランプ政権は28日、テロリストからの攻撃を防ぐための大統領令であり、入国禁止を前に政府機関や空港に通知すると、その間に「悪い奴ら」が入国してしまうと自己弁護した。

 これに対し、ニューヨーク州ブルックリンの連邦地裁が大統領令の効力を一部停止し、有効なビザを持つ人は、一時的に滞在できるという判断を示した。米国自由人権協会(ACLU)は、米空港で拘束された、ビザや難民資格のある100~200人を支援すると表明。市民も立ち上がり、同週末は、約36万人がACLUに計2400万ドルを寄付。この金額は、同協会が1年で集める金額の6倍に達した。

 混乱を見ていると、胸がざわつく。日本はイスラム圏ではないが、トランプ氏は、日本を「不公正貿易国」と敵愾(がい)視している。何が理由で、日本に対して矛先が向けられるか分からない。

雇用機会消滅の原因
移民でなく技術革新

 トランプ氏が選挙戦中、「トランピスト」たちに最もアピールしていたのは、「移民・難民問題」と「通商問題」だ。移民・難民は、米国で犯罪を起こし、病気を撒き散らし、米国人の雇用を奪う。中国、日本、メキシコは、膨大な貿易赤字をもたらす。

 事実としては、雇用を奪っているのは、シリコンバレーが生んだテクノロジーやオートメーション化で、労働者階級の雇用チャンスが消えているのが要因だ。移民・難民に不満を持っているトランピストでさえ、アマゾンで買い物し、オンラインで飛行機のチケットを買い、銀行に行かずオンラインで支払いをし、白人中間層の仕事を奪っている。しかし、トランプ氏は、テクノロジーによる雇用市場の変化を、すべて移民のせいにした。

嘘の情報が流通する
ホワイトハウスの今

 さらに無視できないのは、ホワイトハウスの上級顧問兼首席戦略官に指名されたスティーブン・バノン氏のトランプ氏に対する影響力だ。オルタナティブ右翼のサイト「ブライトバート・ニュース」の会長から、トランプ氏の選対本部最高責任者に抜擢され、ホワイトハウス入りを果たした。

 バノン氏がブライトバートで育んだ思想は、徹底した女性・移民差別と、共和党幹部、主要メディアを含めた支配層への嫌悪と、白人至上主義だ。

 「3分の2か、4分の3のシリコンバレーの最高経営責任者(CEO)が、南アジアかアジア出身なのは多過ぎる」と発言。実際にはアジア系CEOは、数パーセントに過ぎないが、そういう偽情報が、大統領本人に直接伝えられているというのは、危険だ。今回の大統領令のデザインもバノン氏が手掛けたとされる。

 ホワイトハウスで、嘘の情報が流通していることを考えると、私たち市民がいかに理論武装をしなくてはならないか、痛感する。

 トランプ大統領就任式に参加した観衆は、30万人だが、トランプ氏は60万人で過去最大という。過去最大は2009年のオバマ氏の就任式で180万人だ。トランプ・ホワイトハウス発の情報を決して鵜呑みにせず、他の情報源で確認することも重要だ。

ワシントンのウィメンズマーチは、女性の権利だけでなく、移民や同性愛者の権利も訴えた

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

大統領令

大統領令(Executive Order)は、米国大統領が議会の承認なしに、政府や軍に対して発令する行政命令。法律と同等の効力を持つが、議会は反対する法律を作り、大統領令に対抗することができる。また最高裁判所も違憲判断を出すことができる。移民に関する大統領令は27日に署名されたもので、120日間のシリア難民の受け入れ凍結と90日間のテロリストリスクの高い7カ国の国民の入国の凍結を命じたもの。

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