2017/01/20発行 ジャピオン899号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第43回 敵対的時代に突入

市民が統治して
「divisive」回避を

 1月16日は、マーティン・ルーサー・キング牧師の日、そして同じ週の20日は、ドナルド・トランプ氏が大統領となる就任式の日だ。米国にとっては、歴史的な週ともいえる。

 キング牧師は公民権運動に情熱を捧げ、「殉死」した。彼は銃殺されたが、獣のようにリンチで殺害された黒人は当時、子供も含め、数千人に上った。黒人差別は合法だったからだ。

 「南部の木には奇妙な果実がなる/飛び出した眼苦痛に歪む口/太陽に腐り落ちていく果実/奇妙で悲惨な果実」(「奇妙な果実」ビリー・ホリデイ)

 英国の女性歌手レベッカ・ファーガソンは、トランプ氏政権移行チームが、同氏の就任式で歌唱を打診したのに対し、「奇妙な果実」を歌うのであれば参加する、と返事した。同チームが、この選曲を拒否し、彼女は出演を断った。

 人種差別に対する強烈なメッセージがあるこの曲が、華やかな大統領就任式の候補曲にリクエストされるとは、誰が思っただろうか。

敵対的な時代で
差別への危機感

 米メディアは、トランプ大統領政権は、「divisive」、つまり「敵対的な」「分断させる」時代への突入を意味すると書く。「メキシコ人は、強姦魔」「中国、日本、メキシコは、アメリカをダメにした」といった、外国に対する発言。そして、女性を「デブ(fat)、ブス(pig)」と呼んだという過去の発言から、トランプ氏とその政権が、白人米国人を優遇し、アジア人、黒人、ヒスパニック系、女性、同性愛者を差別するという危機感が広まっているからだ。

 しかし、トランプ氏が当選したのは、中間層の白人が、まさしく、非白人、そしてヒラリー・クリントン対立候補に代表される女性を、「脅威」と見て、危機感を抱き、トランプ氏に投票したからだ。

根拠なき脅威
多様性は財産

 話は飛ぶが、マーティン・スコセッシ監督、遠藤周作原作の「サイレンス(沈黙)」を見た。ご覧になった読者もいると思うが、日本人としては、延々と続くキリシタンへの拷問シーンを見るのは、しんどいものがある。しかし、史実としてみると、江戸から見れば、最果ての長崎で、年貢を納める従順な人々が、なぜ、拷問しても諦めないまでにキリスト教にのめりこんだのかと考えると、キリシタンは「脅威」そのものだった。イッセー尾形が演じる宗教尋問官は、江戸にとっては「脅威」、しかし、同じ人間としてキリシタンが「脅威」ではないことも知りぬいた慧眼(けいがん)の人物として、観客の目をひいていた。

 「脅威」は、時として、根拠がないものだ。

 トランプ支持者が「脅威」とみた移民、外国人とそこから生まれる多様性は、米国にとって、財産であり、礎だ。

 大女優メリル・ストリープは、トランプ氏の名前を出さずに彼を批判したゴールデン・グローブ賞授賞式スピーチでこう言った。

 「ハリウッドは犬も歩けばよそ者、外国人の世界なのね。全員追い出してたらアメフトとかぐらいで、見るものがなくなっちゃいますよ」

公民権運動に学ぶ
国変えるのは市民

 そうした財産を脅かすから、「divisive」だとされる大統領が誕生する。米国が「divisive」にならないようにするには、何ができるか。

 キング牧師の死は、無駄ではなかった。リベラルな考えで有名だったジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された後、ジョンソン大統領が、人種差別の合法を終わらせる「公民権法」を成立させた。これは、キング牧師が主導した「ワシントン・マーチ」など、市民の多くが立ち上がった運動なくしては、実現しなかった。

 筆者が米国に来たばかりのころ、10代の白人の女の子が、黒人を「ニガー」と呼んだとき、その黒人を助けることができなかった。しかし、今は、できるだけのことをしようと思う。「Divisive」な国にならないように、私たちが統治しなければならない。

11日、当選後初のトランプ次期大統領の記者会見がトランプタワーで行われた。当日は、パフォーマーのネイキッドカウボーイが現れ、入場を待つ報道陣や集まった反トランプ派の人々の前で歌を披露する一幕も

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

公民権運動

1955年、黒人女性がバスの席を白人に譲らず、「人種分離法」違反で逮捕された事件に抗議し、キング牧師がバスボイコットを呼び掛け、人種問わず多数の市民が賛同した。翌年、最高裁が「バス車内における人種分離」を違憲とする判決を出すと、公民権の適用と人種差別解消を求める「公民権運動」が全国で盛んになった。63年8月には20万人が参加しワシントンDCでデモを行った。運動の結果、人種や宗教、性、出身国による差別を禁止する公民権法が64年7月に成立。

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