2016/12/16発行 ジャピオン895号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第41回 トランプ帝国

トランプタワーに注視
観光名所が司令塔に

 トランプタワーは、かつて観光名所だった。しかし、今や、米国という超大国の将来を決める「司令塔」になった。

 ドナルド・トランプ次期大統領がそこで、閣僚やホワイトハウスの要職を決めているからだ。
 ところが、実際に行ってみると、政治ドラマ「ハウス・オブ・カーズ」の舞台のように感じてしまう。

秘密扉の先は

 タワーに近づくと、マシンガンを抱えた州兵や、防弾チョッキを着た警察官に荷物のチェックをされる。トランプ氏の友人である実業家ジョージ・ロンバルディ氏に会うため、5番街の正面ではなく、ストリート側の入り口に向かう。同氏が、壁のように見えるドアを開けると、狭い警備室にプロレスラーのような体格の警備員がにらむ。さらにもう一枚の扉を開くと、そこはトランプ・バーだった。

 「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」と書かれた赤い野球帽をかぶり、高級なスーツを着た退役軍人が二人、ロンバルディ氏の姿を見てさっと立ち上がり、テーブルへと案内し、椅子を引いてくれる。

 「さあ、どうぞ。ここではみんな友達です」

 警備室からの秘密扉からは、短いダチョウのジャケットにミンクの帽子をかぶり、子犬を連れた女性が出てきた。映画の中にでもいるようだ。

 ロンバルディ氏は、自らをトランプ氏の「チーフ・ソーシャルメディア・オフィサー」と名乗る。選挙戦中、フェイスブックに「ラティーノ・フォー・トランプ」「スチューデント・フォー・トランプ」などのグループを作り、数百万人を集めた。退役軍人らもベテランを集めた運動家らだ。バーでは、どうやら閣僚級とまではいかないが、ワシントンの一部の人事が話し合われているらしい。ここが、そんな場所になると誰が想像しただろう。

 バーの後方には、5階建ての高さの天井から流れ落ちる滝がある。奥に向かって上っていく長いエスカレーターの行き着くガラスのバルコニーは、トランプ氏が、出馬宣言をした場所だ。観光客が盛んに記念写真を撮っている。

 バーの外には、トランプグッズがガラスのケースに飾られている。子ども用品の「トランプキッズ」の中には、チャーリーというビーグル犬のぬいぐるみがある。トランプ氏の次男エリック氏の愛犬だそうだ。これにも盛んにフラッシュが浴びせられる。

風景はまるでドラマ

 エスカレーターを離れて、黄金色の開閉扉のエレベーター前には、数十人の報道陣が控えている。三脚にのったテレビカメラの後ろでは、女性スタッフがうんざりした表情でランチを食べていた。カメラマンらの写真を撮り始めると、皆が笑顔で親指を立てる。そんなことしか楽しみがないのだろう。

 彼らは、エレベーターに入っていく人物を片端から撮影している。ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長、アル・ゴア元副大統領、レオナルド・ディカプリオなど、セレブが突然入ってくる。観光客も運が良ければ、彼らの姿を見たり、一緒に回転扉に入ったりできるだろう。タワーの中では、報道陣の姿までが、まるでドラマのようだ。

米国はどこに向かう

 しかし、だ。セレブや金色のエレベーターに惑わされてはいけない。次々に出てくる閣僚人事を見ると、米国はどこに向かうのかと不安になる。

 首席戦略官になったスティーブン・バノン氏は、反男女平等や反グローバリズムの記事が多い「ブライトバート・ニューズ」のトップだった。財務長官で元ゴールドマン・サックス幹部、スティーブン・ムニューチン氏だが、財政分野の経験はない。同様に司法長官となるジェフ・セッションズ上院議員は、人種差別発言などが問題視されている人物だ。

 もちろん、トランプ氏自身も、1979年の国交断絶後初めて、台湾の蔡英文総統と電話で会談し、「一つの中国」政策を疑問視する発言をした。ホワイトハウス入りする前から、異例の行動と発言で、世界を揺さぶっている。中米関係ほど、重要な2国間関係はないはずだが、次期大統領の異例の行動が、どう日本にも影響するのか心配だ。

次期政権の閣僚人事などが話し合われている、トランプ次期大統領が住む、トランプタワーのロビーには多くの報道陣が陣取っている

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

トランプタワー

ドナルド・トランプ次期大統領とAXAエクイタブル生命保険が共同所有するビルで、5アベニューに1983年に建てられた。高さ202メートル、58階建てで小売店、オフィス、住居の複合ビル。  トランプ氏自身がメラニア夫人と10歳の息子と家族で居住している他、スポーツ選手、俳優、ミュージシャンなどセレブリティーの居住者も多い。ニューヨーク市内には、この他、ウォールストリートとコロンバスサークル、ソーホーにも「トランプ」の名を冠した高層複合ビル、ホテルがある。

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