2016/12/02発行 ジャピオン893号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第40回 トランプバブル

トランプ氏の当選で
株式相場なぜ堅調

 2016年米大統領選は、共和党候補のドナルド・トランプ氏が勝利した。17年1月20日の就任式を経て、米国は8年ぶりに政権交代を経験し、前代未聞のリーダーの下、前代未聞の4年に突入する。

 投開票日の11月8日夜、 ヒラリー・クリントン民主党候補の集会に出掛けた。午後9時過ぎ、日本のニコニコ動画のスタジオにスカイプでレポートをしている最中、アンカーの堀潤氏が、こう言った。

 「津山さん、ドル円相場が1ドル=103円から102円に振れてます」

 クリントン氏の敗北を最初に嗅ぎ取った瞬間だ。

 しかし、11月29日現在、ドル円は111円台と、投開票前より7円も円安ドル高に振れた。「トランプ氏が大統領になったら大変なことになる」と、開票時にドルが売られたのとは逆の相場が進行している。

 また、ダウ工業株30種平均(ダウ平均)が同月22日に初の1万9000ドル台をつけ、続伸した。日経平均株価も連れ高で、「トランプ相場」なるものが形成されてしまった。マーケットの興奮は、どこから来るのか。

経済政策注力への期待
トランプ相場が形成

 まず、トランプ氏が経済政策を重んじるだろうという期待だ。同氏は、所得格差が進み、移民に職や機会を奪われているとフラストレーションを抱えた中間階級が、強力に支え、勝利した。彼らの期待を裏切らないために、賃金を上げ、「古きよきアメリカ」を取り戻すことが、喫緊だ。

 具体的な彼の公約は、道路や橋、空港などのインフラを整えること、そして個人・法人に対する減税と、規制緩和だ。いずれも、景気の拡大を後押しする政策だ。逆に、政府の歳出と財政赤字は膨らむことになるが、目先は、トランプ氏が、支持者の期待を裏切らないことだろう。

公約軟化の理由
懸念されるリスク

 トランプ氏が様々な公約について、「軟化」の姿勢を見せていることも、マーケットは好感している。実は、支持者にとっては公約破りだが、例えば最大の公約だった「メキシコとの国境に万里の長城のような壁を作る」というのは、「一部フェンス」と差し替えた。廃止すると公約したオバマケア(オバマ政権の医療保険制度)も、一部維持するとしている。

 クリントン氏の私用メールサーバー問題についても、大統領に就任したら、特別捜査官を設けて訴追すると、テレビで中継の大統領候補討論会で、脅迫めいた発言をしたが、「前進したい」という理由で、訴追しない方針を明らかにした。

 一方、日本に対しても選挙前、「米軍が日本防衛のために支出している国防費を負担するべきだ」としていたが、11月10日の安倍晋三首相との電話協議では、「日米関係を強化する」と発言した。意味は不透明だが、トランプ氏の外交における強硬路線は、日米関係や他国との同盟関係を危うくする、イコール、世界の不安定につながると懸念されていた。

 トランプ氏が、現実路線を取らなければならない理由は、ワシントンにもある。連邦議会の協力なくしては、何の政策も成立しない。共和党は上下院で過半数の議席を獲得しているものの、「反トランピスト」も少なくはない。内輪の共和党を味方につけなければ、最初から「レームダック」と言える。

 最大の懸念は、彼の保護貿易主義だ。保護貿易は、国内の雇用創出、インフラ整備などにつながり、国内景気を一時的には浮揚させるかもしれない。しかし、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直し、中国に45%の関税を課すといった政策は、良好な関係を保っていた貿易相手国との間に、深い摩擦を生むことになる。

 トランプ氏は、大統領に就任した初日に環太平洋経済連携協定(TPP)から脱退する意向を通知すると表明。これは安倍首相とニューヨークで会談したわずか4日後だ。トランピストからは絶賛を受けているが、国際的なダメージは大きい。

 トランプ氏の経済政策に対する意欲を、マーケットは評価している。しかし、リスクを見逃してはいないかが、懸念される。

オバマ大統領の過去の公約も経済と雇用だった

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

当選後のトランプ氏

トランプ次期大統領は、大統領選で掲げていた数々の公約を当選後に軟化させている。メキシコとの国境に壁を築くとしていたが、一部をフェンスにすると発言。同様に不法移民に対する方針も、犯罪歴のある不法移民を対象にするとし、撤廃するとしていたオバマケアも一部維持を表明、クリントン元国務長官のメール問題も追訴しない考えを示している。反対に、就任後のTPP脱退に関してはいち早く表明した。

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