2016/11/18発行 ジャピオン891号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第39回 トランプ氏の勝利

警戒し、監視続けよう
トランプの敵は、共和党

 このコラムを書いている11月13日現在、8日の大統領選挙の結果を受けたショックは、まだ続いている。共和党のドナルド・トランプ氏が勝利した。予想はしていたが、大都市で起きている抗議デモは、すでに6日も続き、暴動に発展しているところもある。

 ニューヨーカーは、「ビジネス・アズ・ユージュアル(平常通り開店)」といって、どんな困難に直面しても、次のことを考えて、前に進むことを自負してきた。民主党候補のヒラリー・クリントン氏を支持した半分の国民にとって、ショックはそれほどに大きい。

現実路線の見極め

 ビル・デ・ブラシオ市長は記者会見し、こう言った。

 「不安になっているニューヨーカーに伝えたい。確信を持ってくれ。私たちは、市が持てる全ての力を使って、あなたたちの権利を守る。私たちは、あなたたちの味方だ」

 市長が、こうした声明を出すのには、意味がある。すでに、大学のキャンパスや学校で、「ヘイトクライム」とみられる事件が表面化しているからだ。

 しかし、敗北したヒラリー・クリントン陣営が、激戦州で票の再カウントを要求し、選挙結果が覆されない限り、現実路線を見極めていく必要がある。

公約実現の壁

共和党の有力支持者であり、米投資銀行ガリレオ・グローバル・アドバイザーズのマネジング・ディレクター、ジャン・クロード・グルファー氏に、今後の動きを聞いた。

 「トランプと共和党は、互いに異なるアジェンダ(選挙公約)を掲げているため、それを合体させていくことが必要になる」

 その実現には、同党のリーダーである、ポール・ライアン下院議長やミッチ・マコネル上院院内総務らに、トランプ氏は頼らざるをえないだろう。

 確かに、 トランプ氏は、政治家でも共和党員でもなかった「部外者」だ。党をまとめて、連邦議会を味方につけない限り、何の政策も実現できない。「米国とメキシコの国境の壁を建設する」というトランプ氏の最大の選挙公約も、グルファー氏は、「絶対に実現しない」と断言する。共和党の選挙公約になく、同党議員の賛成が得られないからだ。

 トランプ氏のホワイトハウス入りは、選挙の結果として決まった。しかし、ブッシュ親子元大統領や党の重鎮が、彼には投票しないことを表明していた。その一方で、ニュート・ギングリッチ元下院議長や、ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長などが熱狂的に彼を支援した。つまり、共和党の中にも「トランピスト」と「ノントランピスト」がいる。つまり、共和党内で分裂していることが、トランプ大統領の今後の「敵」だ。

「偉大な国」は誰のため

 有力紙ニューヨーク・タイムズの記者が議論を交わす「NY1」の日曜日の番組で、今後をどう見極めるのか騒然となった際、記者の一人がこう言った。

 「トランプは、橋や空港などインフラを良くすると言っている。そうなるなら、社会には良いことではないか。警戒しながらも、用心深く見守っていく、それしかない」

 内政だけでなく、日本を含めた海外からの警戒は必要だ。トランプ氏が日本や北大西洋条約機構(NATO)など同盟国を軽視する姿勢は、世界をより不穏な場所にする可能性がある。熱狂的な支持を得た保護貿易主義で、中国やメキシコからの輸入品について高い関税をかけるというのも、強烈な抵抗があるだろう。深刻な貿易摩擦に発展する可能性もある。

 トランプ氏は、自分こそが一番と思っていないと気が済まず、短気なところを、3回の大統領候補討論会のテレビ中継中に、度々露呈するのを、私たちは目撃した。その彼が、核兵器使用を含む軍の「コマンダー・イン・チーフ(最高司令官)」になるのも、脅威だ。

 トランプ氏の「アメリカを再び偉大な国に」というスローガンは、言葉通り取れば、パワフルなものだった。ただ、それが誰のためのものかが問題で、デモが起きているわけだ。スローガンが、真に実現すればと願うばかりだ。

ニューヨークのクリントン氏の選挙本部には勝利集会を期待し、2万人が集まった

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

大統領選挙

8日に投票、開票が行われた大統領選挙では、共和党候補ドナルド・トランプ氏が過半数の選挙人を獲得し勝利。選挙人投票は12月19日に行われ、その結果を踏まえ、1月6日の連邦上下院合同議会で正、副大統領が正式に就任。敗北した民主党ヒラリー・クリントン氏は全体得票率ではトランプ氏を上回っていた。2000年の大統領選で全体得票率で上回りながら敗北した民主党候補アル・ゴア氏以来。同時実施の連邦議会選では上下院で共和党が多数派を占めた。

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