2016/10/21発行 ジャピオン887号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第37回 大統領選最新動向

「最も見苦しい」討論
苦い思い出残る選挙戦

 「最も安っぽい」「最も見苦しい」(米メディア)という大統領候補討論会が10月9日、終わった。第3回目の討論会が同月19日にある。

 さらにこの10日間は、大統領候補ドナルド・トランプ氏から、セクハラを受けたという女性が、相次いで米メディアに証言。17日までにその数は、9人に及ぶ。

 僅差で推移していた世論調査は、最も差が開いているもので、ヒラリー・クリントン民主党大統領候補の支持率が51%、トランプ氏が40%と、11ポイントも開いた(CBSニュースの調査)。ニューヨーク・タイムズがまとめた10の世論調査の平均は、クリントン氏が46%、トランプ氏が40%だ。

 重鎮がトランプ不支持

 トランプ氏の後退は、ワシントン・ポストが、トランプ氏が既婚女性に性的関係を迫ったことを自慢していたビデオをスクープしたことで始まった。その後、42人の共和党幹部が「トランプ氏を支持しない」と表明(10日現在、米紙ニューヨーク・タイムズ)。中には、「他の人に投票する」とした元大統領候補のジョン・マケイン上院議員、「トランプ氏は、選挙戦から撤退すべき」としたコンドリーザ・ライス元国務長官など党の重鎮も含まれる。

 場外戦の笑話だが、討論会寸前、トランプ氏は、ヒラリーの夫、ビル・クリントン元大統領が、暴行を振るったという女性4人をそろえて記者会見。彼女たちを討論会会場の最前席に招待した。

 そもそも、テレビの生放送で、討論会を行うのは、有権者のほとんどが、集会などで、直に大統領候補を見るチャンスがないためだ。候補者が遊説を行うのは、全米50州のうち激戦州の10州あまりでしかない。有権者の多数は、テレビ討論会で、候補者の政策の違いを比べ、大統領にふさわしい人格と資質を見極める。しかし、第2回目の討論会は、選挙の本筋ではなく、トランプ氏が女性をめぐる発言をどう説明し、クリントン氏は、ビル氏の女性問題にどう防戦するかということに関心が集まってしまった。一般市民が、そこに興味を抱いても、仕方がない状況だ。

コア支持者は揺るがず

 討論会後のCNNの視聴者調査の結果は、クリントン氏が討論に勝利したと答えた人が57%、トランプ氏は34%とクリントン氏が優勢。しかし、有利と思えたクリントン氏は第1回討論会後の62%よりも5ポイント落としている。さらに、「トランプ氏は思っていたよりも良かったか、悪かったか」という質問に対し、「良かった」が63%と「悪かった」の21%を大きく上回るという結果が出た。

 なぜか。トランプ氏のコアの支持者は、米主要メディアが伝えているトランプ氏の人種差別を肯定したビジネスや、合法的に「税金逃れ」をしていたという報道には、ほとんど接していない。彼らは、「オルタナティブ・ライト」と呼ばれる極右系のサイト「ブライトバート」や、ラジオパーソナリティーが発信している「情報」を信じている。

 オルト・ライトのメディアは、トランプ氏を告発している女性の問題などは、報じない。むしろ、それは「嘘だ」とするトランプ氏を強力に支持している。

 また、共和党のトップであるポール・ライアン下院議長が、ウィスコンシン州で開いた党のイベントで、トランプ氏の参加をキャンセルした。これについて、「ブライトバート」は、「キャンセル」をニュースとしたのではなく、「ライアン議長、トランプ支持者にブーイングで迎えられる」と報じた。筆者は、ライアン議長の7分間の演説ビデオを見たが、ブーイングよりは、参加者の拍手の方が優っていた。

 共和党内では、トランプ氏が撤退し、マイク・ペンス副大統領候補を大統領候補に、という声が上がっている。しかし、党則では、大統領候補が死亡するか、自ら撤退を表明しない限り、候補者を交代させることはできない。トランプ氏は、やけっぱちの選挙戦を続けるだろう。

 クリントン氏は、ニューヨーク・タイムズによる勝率の予想で、92%と圧倒的な強さを見せる。しかし、彼女が勝利したとしても、今回の大統領選挙は、政界、そして有権者にとっても「苦い思い出」となるだろう。

ペンシルベニア州のトランプ氏の集会で興奮する支持者

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

アメリカ大統領討論会

現在のような2大政党の大統領候補による討論会のテレビ放映は1960年の当時上院議員だったジョン・F・ケネディー(民主党)と当時、ドワイト・アイゼンハワー大統領の副大統領だったリチャード・ニクソン(共和党)の両候補の討論が初めて。今回の大統領選での第1回の討論会のテレビ視聴者は8400万人で、36年ぶりに最高記録を更新。関心の高さがうかがわれた。ちなみに、この数字は、フェイスブックなどのネット中継の視聴者は含まれていない。

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