2016/10/07発行 ジャピオン885号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第36回 大統領選のゆくえ

拮抗続く2候補の争い
トランプ勝利の可能性

 「大統領選挙は、どちらが勝つのですか?」

 とよく聞かれる。つい1カ月前まで、「ヒラリー・クリントン民主党候補ですよ」と言っていた。今はもう、そう言う自信がない。

 数字的な根拠を示そう。ニューヨーク・タイムズが日々更新している「誰が大統領になるのか」という勝利の確率予想がある。10月2日現在、クリントン氏が77%、ドナルド・トランプ共和党候補が23%だ。

勝率、支持率合わせ
全く互角の戦い

 この確率は、8月下旬、クリントン氏が90%と圧倒していた。同様に、538(ファイブ・サーティエイト、538は、投票日に勝敗を決する選挙人の総数)というサイトでも、現在クリントン氏が68・1%だが、8月中旬は、89%もあった。このほか、おそらく皆さんがよく目にする世論調査の結果がある。これは、前記の「勝率」ではない。

 電話で有権者から得た「支持率」の調査結果で、クリントン氏が44%、トランプ氏が41%だ(同月2日現在、ニューヨーク・タイムズが10の調査結果の平均をまとめたもの)。その差、3ポイントでは、誤差の範囲内だ。

 勝率、支持率を合わせ見た場合、これは、全く「互角」の争いだ。「トランプ氏は、政治の経験がないし、発言にも問題があるから、そんなことあり得ない」というのは、甘すぎる。日本も含め、世界の主要新聞は、11月8日にトランプ氏が当選した場合を考えて、彼の半生記や、今後の米政界の見通しなどの原稿を準備し、彼の若い頃の写真などを集めている。

これまでの常識
当てはまらない

 数字以外の根拠もある。トランプ氏の選挙運動は、ほとんど本人と、マイク・ペンス副大統領候補の遊説だけだ。ところが、クリントン陣営では、有権者登録や事前投票を訴えるだけでも、オバマ大統領、ミシェル大統領夫人、バイデン副大統領、ビル・クリントン元大統領、娘チェルシーが、手分けして激戦州を訪れ、「オールスター戦」だ。これだけのスターをそろえているのに、なぜ、支持率が拮抗しているのか、不思議でならない。つまり、これまでの選挙運動の常識は当てはまらない。

 オバマ大統領が、2008年、12年に勝利したのは、白人の得票で、共和党の大統領候補者に負けたものの、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、女性、若者という浮動票で、8割前後の得票を達成したためだ。激戦州における浮動票対策も、ボランティアを駆使し、天候や投票所の混雑などを理由に、投票を諦めるかもしれない有権者を事前投票に動員させて、勝利した。

 08年の事前投票の取材で、バージニア州ハンプトンを訪れた時のことは、忘れられない。白人の若い男性が、折りたたみ椅子を片手に、黒人のお年寄りを案内していた。列にたどり着くと、パッと折りたたみ椅子を広げて、お年寄りを座らせる。投票が終わるまで付き添って、自宅まで車で送る。そして、また次のお年寄りと椅子を携えて、投票所に戻ってくる。オバマ氏を勝たせるための、人間の「輸送」システムだった。

党支持者2割がアンチ
消去法でトランプ?

 しかし、今回クリントン氏は、非白人、女性の支持率で、トランプ氏のそれを上回るものの、オバマ氏ほどの熱狂はない。事前投票を表明した有権者も、オバマ氏を下回る。また、長蛇の列を作っても、投票に行くかどうかは把握できない。ミシェル大統領夫人が、ペンシルベニア州での遊説でこう言っていた。「12年にバラクがこの州を制したのは、1郡当たり17人、敵より票が上回ったお陰よ」

 それほどの接戦なのだ。

 さらに、見過ごせないのは、「アンチ・クリントン派」だ。国務長官時代のメールサーバー問題、夫ビルの不倫問題などに目をつむって、ホワイトハウスに送り込むのは、どうしても許せない、という若者などが、消去法でトランプ氏に投票する。これは、潜在的な民主党支持者の2割ぐらいはいるとみられている。

 トランプ大統領誕生の可能性がいかに高まっているかを理解してもらえただろうか。

トランプ候補の集会に来る白人中間層の底力はあなどれない

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

浮動票

浮動票(FloatingVote)とは、支持候補、政党を持たない有権者、および票のこと。アメリカでは5人に1人とされる。候補者の主張や社会状況などによって投票する候補を決める(あるいは投票しない)。候補、政党が支持基盤を持つ州以外で、浮動票の流れによって、当選が決まる可能性が高い州を「SwingState」(激戦州)(揺れる州)と呼ぶ。今回激戦州とされているのはフロリダ、ペンシルベニア、オハイオ、バージニア州。

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