2016/09/16発行 ジャピオン882号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第35回 クリントン候補の健康問題

高齢候補者の争いで
トランプ氏に追い風

 9月11日、米同時多発テロから15周年の朝。前日までの湿気による暑さが嘘だったかのように、からりとした空気が漂い、秋の青空が広がった。その朝は、奇しくも、今年の米大統領選挙の流れを変えることにもなった。

 911追悼式典に参加していた民主党のヒラリー・クリントン候補が、体調を崩し、退席した。ワシントン・ポストなどが掲載したビデオでは、専用車を待つ間、女性の側近が彼女の脇を抱えているが、車が着いても自分で乗ることはできず、後ろに倒れそうになるのをシークレットサービスらが支えながら、乗車させる様子が映っていた。

 同日夕、主治医が声明を発表し、2日前に肺炎と診断し、抗生物質を投与していたことが明らかになった。式典に参加したものの、熱射と脱水症状が表れたという。クリントン氏は同時に、娘チェルシーのアパート前に現れ、集まったメディアや通行人に手を振って、彼女の体調に関する不安を払拭しようとした。

健康に懸念ある対決
過去にない争いの様相

 11月の投票日まで2カ月余りとなった今、クリントン民主党候補(68)とドナルド・トランプ共和党候補(70)の両候補が繰り広げる選挙戦は、過去に見ないものだ。なぜなら、トランプ氏が当選すれば、過去最高齢、クリントン氏であれば史上2番目に年齢が高い新大統領と、健康に懸念があってもおかしくない高齢者同士の戦いだからだ。

 両候補者の集会に行っても、オバマ大統領(現在55)が2008、12年に候補者として開いていた熱狂的な集会に比べると、かなり落ち着いた感じだ。オバマ氏は、紹介者に名前を呼ばれると、長い足で、壇上にさっと駆け上がり、時には花道を小走りで登場した。クリントン氏もトランプ氏も下半身を隠す余裕のある上着を着ているのに対し、オバマ氏は上着を着ていないことが多く、ノーネクタイで、登壇した時すでに腕まくりをしていた。若々しいイメージを有権者に印象付け、オバマ氏は、47歳で大統領に就任した。

 これに比べると、クリントン氏もトランプ氏にもステージに駆け上がるというような、キビキビした集会は期待できない。

 クリントン氏の健康問題については、トランプ氏やジュリアーニ・元ニューヨーク市長(72、共和党)が、大統領職に必要なスタミナがないという攻撃を強めてきた。オンラインでは、パーキンソン病ではないかという疑惑や、ガクガクと激しく首を振り、何らかの神経疾患を思わせるビデオも簡単に見つかる。

トランプ氏の「健康」
医師5分で診断書作成

 クリントン氏は12年の国務長官時代、脳しんとうを起こし、脳内に血栓ができたため入院したこともある。これを理由に、保守派メディアは、同氏が深刻な脳に対するダメージを受けていると主張する。

 一方で、トランプ氏があまりに過激で不適切な発言も厭わないため、オバマ氏の元選対幹部がテレビ番組のコメントで「精神病質者(サイコパス)」と指摘した。以来、反トランプの有権者の間では、「サイコパス」という言葉が定着しつつある。トランプ氏陣営は、トランプ氏に健康上の問題はないと主張しているが、「驚くほど健康」とした医者の診断書がわずか5分間で書かれたと報道されている。

 過去の大統領選挙では、ほとんど問題ではなかった「健康」が原因で、今回の選挙の流れも変わる可能性が高まっている。実は、クリントン氏の勝利の確率は、9月11日に先立つ1カ月、下り続けている。ニューヨーク・タイムズが日々更新する勝利の確率は、8月上旬、90%だったが、9月11日には79%に低下している。

 同時に、世論調査による支持率は、CNNと調査機関ORCが9月6日に発表した調査では、トランプ氏が2ポイント優勢。ラスムッセン(同月1日)とロイター/イプソス(2日)は、1ポイント差でトランプ氏がリードで、「追い風」が吹いている。イコール、クリントン氏との接戦は間違いない、と9月の空が告げている。

トランプ氏のお面は、今年のハロウィーンの仮装では、人気商品になりそうだ

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

クリントン氏の健康問題

民主党の大統領候補、ヒラリー・クリントン氏は、オバマ政権下で国務長官を務めていた2012年に、脳しんとうを起こし、意識不明に陥り入院。その際に頭部の血栓が見つかり治療を受けた。クリントン氏は2016年9月11日の911追悼記念式典に出席したが、体調不良を訴え、席を立った。式典の3日前に肺炎を患い、当日は脱水症状を起こしたとしている。今回の件で、これまで以上にクリントン氏の健康状態を危惧する報道が増えている。

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