2016/09/02発行 ジャピオン880号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第34回 大統領選の動向

トランプ候補陣営の下
右派メディア表舞台に

 選挙陣営のトップに、過激な右派メディアの経営者を起用する—。米大統領選挙で、共和党候補のドナルド・トランプ氏が、表現の自由を標榜する世界一の民主主義国家で、「反乱」を起こしている。

 「われわれは、ヒラリー・クリントン(民主党候補)と戦っているのではない。不誠実で完全に偏ったメディアと戦っているのだ」

 トランプ氏は8月15日、支援者への一斉メールで、主要メディアに対する全面戦争を宣言した。ニューヨークタイムズなどの有力新聞、CBS、NBC、ABCなどのネットワークテレビ局、CNNなどの24時間ケーブルニュース局といった伝統的なメディアは、すべて敵だ。トランプ氏は、こう主張する。

 「メディアが常に、(保守派の)共和党をやり込めようとしてきたのは知っていた。しかし、この選挙戦を通して、いかにメディアが偏向していて、不誠実かがはっきり分かった。メディアのやりたい放題にはさせておけない。われわれの選挙戦では、やり返すんだ」

主要メディアは不誠実
報道の姿勢を問う

 同時に、トランプ氏はウェブサイト「主要メディアの信頼性調査(メインストリームメディア・アカウンタビリティ・サーベイ)」を新設。支持者がアンケートに答え、トランプ氏が主要メディアと戦う資金の寄付を求めている。質問は以下のようなものだ。

 「FOX、CNN、MSNBCなどのケーブルニュース局は、トランプ氏の選挙戦に対し、公正な姿勢の報道をしていると思うか」

 「主要メディアは、オバマケア(オバマ大統領政権が実現した医療保険制度)に複数の欠陥があるということを明らかにするために必要な精査を行ったと思うか」

 「(保守強硬派の)茶会党(ティーパーティー)についての報道は、意図的にネガティブなものだったと思うか」

 さらに同サイトは、これまで有権者が、選挙の動向を知るために接してきた主要メディアではなく、トランプ氏を支持している右派メディアの「ドラッジリポート」「ブライトバート」「ナショナル・レビュー」などを読むように勧めている。

 同時にトランプ氏は、右派メディア「ブライトバート」のトップだったスティーブン・バノン氏を選対本部の最高責任者に抜擢した。同氏については、過去にブルームバーグが「最も危険な政治工作員」と指摘している。

クリントン氏が反応
憎しみを推進と警鐘

 1年前は誰も知ることがなかった「ブライトバート」は、トランプ氏を支持して、急速に成長してきた。男女平等主義、イスラム教徒、同性愛者、リベラル派だけでなく、共和党の主流派でさえ過激に攻撃する。「ハイテク企業がなぜ女性を雇わないのか〜インタビューでムカつくからだ」といった記事が、人気を集める。

 クリントン氏は、即座に反応した。

 「トランプ氏は、憎しみを推進するグループを、表舞台にのし上げた」

 主要メディアを敵視する姿勢は、4月にニューヨーク州北部のポーキプシーで、そして7月にペンシルベニア州スクラントンで、トランプ氏の集会に参加した時も目撃した。

 「メインストリームメディアは、最も不誠実な奴らだ!」

 同氏が演説の最中、演台の正面に設けられたメディアの取材席を指差し、こう叫んだ。すると、支援者がブーイングを始め、まるで、記者らが犯罪人でもあるかのように、スマートフォンで写真を撮る人さえいた。

 集会では、「ヒラリーは、死ね」という声さえ上がる。クリントン氏が指摘するように、トランプ氏は、対立候補、移民、イスラム教徒などへの「敵愾(がい)心」を煽ることで、人気を得ているのが、集会に参加するとよく分かる。

 ブライトバートから起用したバノン氏は、家庭内暴力(DV)で元妻から警察を呼ばれた過去があったことも米メディアが報じた。過去のチェックもせずに、政治経験もない人物を起用することも、最近の米大統領選挙では異例なことだ。

 いつまで、このような「異常さ」を、世界最大の民主主義国家が許していくのだろうか。

共和党大会で反トランプを訴える人々

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

ブライトバート

ブライトバート・ニュース・ネットワークはロサンゼルスに本社を置くオンラインニュースサイト。ラジオ放送、ブライトバート・ニュース・デイリーも行う。保守派コメンテーターのアンドリュー・ブライトバートが2005年から開始したニュースサイトを基盤に07年に創設。当初は通信社のニュースを集めた米国のニュース、オピニオンを掲載した。WTAEニュースのアンカーだったスティーブン・バノンを雇い入れ、12年にブライトバートが亡くなった後、テキサスなどに支局を設置し、事業を拡大。

バックナンバー

NYジャピオン 1分動画


ただいま配布中発行

巻頭特集
「ニューヨークの家賃は学区で決まる」。そうささ...

   
Back Issue 9/14/2018~
Back Issue ~9/7/2018
利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント