2016/06/17発行 ジャピオン869号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第29回 ヒラリーが民主党指名候補勝利宣言

女だからではない勝利
サンダース支持者どこへ

 「ヒラリーが女性ではなくても、私は彼女に投票する!」

 学校の先生のように見える年配女性が、若者に囲まれ、スマートフォンで写真を撮られていたので、近づくと、彼女はお手製のプラカードを持っていた。なるほど、と思い、私もパシャリ。

 米大統領選・民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官が4月半ば、ミッドタウンのヒルトンホテルで開いた、女性のための集会でのことだ。年配女性に話し掛けると、やはり元中学校の先生で、とうとうと話した。

 「ヒラリーは学生のころ、正義に目覚め、活動家になった。弁護士になり、社会正義を実現しようとした。ファーストレディーとしては、子供のヘルスケア制度をクリエートした。ニューヨーカーは、彼女を2度も上院議員に選び、彼女は、911テロの後、街の復興に奔走した。国務長官になって、ホワイトハウス歴は、計12年に及んだ。男性でも、これだけ大統領職に近い経歴を持った人がいるかしらね」

 「そうですね」と筆者。

 「でも、それをバーニー・サンダース上院議員を応援している若者は分かっていないのよね!今を逃したら、これだけのキャリアの人物がいつ現れるのよ!」と、彼女は気炎を上げた。

資格は十分な人物
オバマも正式支持

 6月9日、奇しくもオバマ大統領が、この元女性教師と同じことを繰り返した。

 「ホワイトハウス執務室入りするのに、これだけの資格を備えた人物が、過去にいたとは思えない」

 同月7日、クリントン氏が民主党代議員の過半数を獲得し、指名候補になるのが確実になったことを受けて、オバマ氏が正式にクリントン氏の支持を表明したビデオの中でだ。

 クリントン氏を追い上げたサンダース氏は、オバマ大統領に面会を申し込み、1時間あまり、両者の会談が持たれた。その後、記者団から、「選挙戦を撤退するのか」と集中砲火の質問が飛んだが、それには答えず、こう言うにとどめた。

 「私は、共和党候補のドナルド・トランプ氏が合衆国大統領になるのを阻むために、力が及ぶ限りのことをする」

 しかし、オバマ大統領は前出のビデオで、サンダース氏との「お手打ち」が、成功したことをほのめかした。

 「サンキュー、サンダース上院議員、貧困の問題に、そして政治とカネの問題にスポットライトを当ててくれて。そして、若い人たちをこの選挙戦に導いてくれて」

 さらにオバマ氏は、テレビ番組の収録中に、こうもコメントした。

 「物事が、この数週間で、落ち着くところに落ち着くのを期待している」

 民主党選出として立候補したサンダース氏は、指名を受けなかった場合、党の指名候補を支持しなくてはならないという覚書にサインしているはずだ。同時に、民主党にとっても、彼の若い支持者がクリントン氏に投票するのを促し、「3期連続」民主党政権を実現することが、悲願でもある。

正統派キャリアゆえ
遠ざけ、嫌う声も

 しかし、サンダース支持者の友人は、こう言う。

 「長くワシントンにいて、ウォールストリートや大企業からの汚い金にまみれたクリントン氏を支持するのは、嫌だ」

 彼らは、ワシントンの支配層が築き上げてきた世界を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌う。押しも押されぬ正統派政治家のクリントン氏のキャリアが、彼らを遠ざける。

 本選挙では、こうした有権者が、クリントン氏ではなく、トランプ氏に投票する可能性も少なくない。それほどに、有権者は、ワシントンではなく、自分たちを主役にしてくれる政治を求めている。

 これを書いている時点で、サンダース氏の去就は不透明だ。しかし、彼がそうした有権者の声を真摯(しんし)に聞き、マニフェストに盛り込んだことは、今後の本選挙に大きな影響を与えるのは間違いない。

ニュージャージー州ニューアークの集会で自撮りに応じるクリントン氏(6月1日、撮影・筆者)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

これからのサンダース氏

バーニー・サンダース上院議員は9日、オバマ大統領と会談し、共和党候補のドナルド・トランプ氏が大統領となることを可能な限り阻止すると表明している。また、今後ヒラリー・クリントン氏と話し合いを行うことも示唆。クリントン氏が大統領に就任した場合に、どのような政権にしたいのか話を聞き、自身が掲げてきた、医療ケア、公立大学の学費無料などの主張を、クリントン氏にも支持してもらいたいとしている。サンダース氏は13日時点では、撤退は表明していない。

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