2016/05/20発行 ジャピオン865号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第27回 メーガン・トレイナーのメッセージ

米国の肥満の実態
過剰反応も問題

 「私のウエストに触っていいって言ったかしら? 私のウエストを返して!」

 グラミー賞歌手メーガン・トレイナー(22)から、この妙なテキストメッセージをもらったビデオ編集者は、さぞかし肝を冷やしたにちがいない。

 彼女がリリースした新曲「Me Too」のミュージックビデオで、複数の編集者がおそらく良かれと思って、彼女の比較的豊かなウエストを細く「修正」していた。実際のビデオを見ると、青いタイトなドレスの見事な丸いヒップに対して、異様にウエストが細く、まるで青い女王蜂のように見える。

 トレイナーは、10代のころ、自分の体型を気にして、体の線が出ないスエットを好んでいたという。しかし、現在はセブンティーン誌にこう話す。

 「今は、タイトなのが好きよ。自分の持っている体型を、強調したいの!」

 ちなみに彼女のサイズは12だそうだ。女王蜂にされてしまったビデオを確認したトレイナーは、そのビデオを非公開にし、修正前の状態に戻したものを再度公開した。

 彼女の主張は、やせ過ぎだ、いや太り過ぎだと悩む女性に対して「ありのままの自分を好きになろう」という強いメッセージがある。特に、他人と比べたり、比べられたりするプレッシャーが大きいティーンズの女子には、強い味方だ。

ダイエット関連市場は
200億ドル規模

 ティーンズのバレエダンサーや、若いモデルに話を聞くと、骨と皮のような体型を維持することに血道を上げているのは、他人からのプレッシャーが大きいからということがよく分かる。

 「友人は、あんなに壊れそうに細いのに、私はどうして、そうなれないの」と、ダンサーに青白い顔で打ち明けられたときは、ぞくっとした。

 そうしたダンサーやモデル、俳優の異様に細い体型を、〝フツー〟の女子、男子がまねしようとするから、不健康な体型が社会全体の「幻想」となる。ダイエット関連市場は、200億ドル規模にも及ぶという。健康に気を使ったダイエットならいいが、無理に体型を「修正」しようということであれば、世界には餓死する子供もたくさんいるのに、などと考えてしまう。

3人に1人が肥満
所得格差も関連

 もちろん、本物の「肥満」となると問題は別だ。ボディマス指数(BMI)が26・4以上の肥満率は、米国人は31・8%で、日本人は4・5%だ。これが、「なぜ、米国にはこんなに太った人が多いのだろう」と日本人が思う数字的な根拠で、成人の3人に1人が肥満というのには驚く。

 肥満は慢性病のもとであり、慢性病のヘルスケアのコストは、年間最大で2100億ドルにも上る。オバマ大統領が、医療保険制度(オバマケア)の成立に腐心したのは、肥満の国民が多いのが一つの背景といってもいい。日本などよりもはるかに大きい慢性病の割合が、医療コストを押し上げ、保険に加入できない人が、悲惨な目に遭うからだ。

 肥満は、所得格差とも関連している。年収が1万5000ドル以下の成人は33%が肥満で、5万ドル程度の収入の人の肥満率は24%にとどまる。健康的な食事をする収入の余裕がある高所得層に比べ、低所得層はファストフードや缶詰など安い食品に頼り、肥満になり、払えない医療費もかかるという負の連鎖だ。

ティーンズに届け
トレイナーの訴え

 こうして、「肥満=悪」という構図は、誰もが意識しているため、逆にビジネスの面では、細い人がもてはやされる。エンターテインメントやメディアの世界では、太った人はほとんど見ない。容姿はあまり関係ないと思われるニュースの世界ですら、太った人はいない。国民の3割が肥満というのに、これは異様なことだ。

 メーガン・トレイナーのメッセージは、エンターテインメントの世界にあって「体重過多」ぐらいは、何の問題もないということだろう。ティーンズの女子男子が、無理なダイエットに走ったり、容姿を苦にしたりしない環境を作ろうという訴えだ。大いに応援したい

2013年に国連食糧農業機関がまとめた統計によると、成人の肥満率はメキシコが1位で約33%、米国は2位で31.8%

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

メーガン・トレイナー

マサチューセッツ州ナンタケット出身の女性シンガーソングライター、音楽プロデューサー。2014年のデビューシングル「AllAboutThat Bass」は全米シングルチャート8週連続1位を獲得。カナダ、ヨーロッパ各国、オーストラリア、ニュージーランドでも1位を記録する大ヒットとなった。日本でも話題になり、15年4月には、東京・ラフォーレミュージアム原宿で初の来日公演を開催。今年2月15日に授与式が行われた「第58回グラミー賞」で「最優秀新人賞」を受賞した。

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