2016/04/15発行 ジャピオン860号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第25回 ニューヨーク州の予備選が間近

試される大統領選候補
ニューヨークバリュー?

 メディアが騒いでいる米大統領選挙の予備選挙が4月19日(火)、とうとうニューヨーク州で行われる。4月上旬、民主党、共和党、両党の候補者がどっとニューヨークにやってきて、彼らの「ニューヨーカー度」が試されている。

 民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官は、地下鉄4番線に乗ろうとして、改札でメトロカードを5回もスワイプしなければならなかった。ニューヨークで過去3回の選挙を戦っている彼女だが、地下鉄に乗った試しがなかったのだろう。

 同じくバーニー・サンダース上院議員は、地元紙デイリー・ニューズの論説委員の質問に、最後に地下鉄に乗ったのは約1年前だが「トークン」(2003年に廃止)が必要だったと答えた。論説委員が「ハズレ」と言うと、「じゃあ、改札を飛び越えるだけさ」と言った。ブルックリン生まれで庶民派、いや民主社会主義者のはずだが、あまりに意外な答えだ。

ピザを食べパンをこね
各候補者の猛アピール

 一方、共和党候補のジョン・ケーシック・オハイオ州知事は、ピザをフォークで食べた。これもアウトだ。ビル・デブラシオ・ニューヨーク市長が、ナイフとフォークでピザを食べた画像が流れて批判されたのは記憶に新しい。片手でピザを持ち、二つに折って口に運ぶのが、「ニューヨーク流」だそうだ。

 テッド・クルーズ上院議員(共和党)は、ブルックリンのユダヤ人コミュニティーを訪れ、ユダヤ人のパン「マッツォ」をこねるのを手伝った。一般的にはリベラル派が多いとされるユダヤ人社会にアピールするパフォーマンスに必死だったのか、ジョーク一つ言わず、終始無言だった。当然、リベラル派のユダヤ人が「オーマイゴッド、改宗したい!」とツイートする騒ぎになった。

 共和党でトップを走るドナルド・トランプ氏は、ロングアイランドで集会を開いたが、同氏の差別的・排他的な発言に反発するデモが起き、逮捕者まで出た。

 候補者が民主、共和選出にかかわらず、ニューヨーカーの歓迎はタフだ。

NYバリューで衝突
クルーズとトランプ

 そんな中、クルーズ氏が「ニューヨークバリュー」という言葉を口にして、話題を呼んでいる。

 「私の理解では、ニューヨークバリューというのは、社会全体がリベラルで、民主党が培ってきた。それが経済をむしばんで、ニューヨークの市民を苦しめている」

 クルーズ氏流の解釈ということだが、果たして、本当のニューヨークバリューとは何か。

 西海岸や中西部、南部各地を見てきた筆者としては、ニューヨークは、白人ばかりでなく、あらゆる国から来た人が集まっているにもかかわらず、懐が深く、何かがあると団結心が湧くところが特徴だ。極端になると、メトロカードをうまくスワイプできるか、ピザをどう食べるか、と、いちいち揚げ足を取る行動にまで出る。

 クルーズ氏にうまく反論したのは、意外にもトランプ氏だった。

 「(911テロで)世界貿易センターが崩壊した時、ニューヨークほどけなげに、思いやり溢れる行動をする都市を他に見たことがない。ニューヨークの人々は、戦って、戦って、戦い抜いた。そして、ダウンタウンを復活させた」

 クリントン氏やサンダース氏の反論は聞かれなかった。


苦境に耐え再起する
底力こそがバリュー

 もちろん、災害やテロに対して、忍耐強く戦い、再び立ち上がったのはニューヨークだけではない。東日本大震災後の日本しかり、パリもそうだ。しかし、困難な時の底力を、住民の「バリュー」として語ることほど、説得力があることはないだろう。

 国のリーダーを選ぶ一大イベントで、候補者が日々、思いがけない試練に直面している。日本の政治家ならもたないだろう。同時に、有権者も「リーダー」とは何か、さらには「ニューヨークバリュー」「テキサスバリュー」なる自らにとって大切なものは何かを振り返る。

 これは、単なる首脳の選挙だとはいえない。国家全体の「再構築」作業ではないだろうか。

ヒラリー氏のために遊説した、夫のビル・クリントン元大統領(筆者撮影)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

テッド・クルーズ

テキサス州選出の上院議員。大統領選共和党候補の1人で、保守強硬派として知られる。キューバ移民の父と、デラウェア州出身の母の間に、カナダで出生。1974年にテキサス州に移住し、以降同地で育つ。99年の大統領選の際にはジョージ・W・ブッシュの政策アドバイザーを務め、その後、司法副次官などを経て2012年から上院議員に。5日に行われたウィスコンシン州の予備選では、ドナルド・トランプ氏を破り、指名争いが決着するのは党大会へ持ち込まれる可能性も出てきた。

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