2016/04/01発行 ジャピオン858号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第24回 ベルギーのテロとブロードウェーショー

テロの時代を考える
ヒントは舞台にあった

 ベルギーのブリュッセルで、再び「同時テロ」が起きた。少なくとも31人が死亡、280人以上が負傷した。病院を見舞ったベルギー軍関係者は、「まるで戦争に行ったかのような、恐ろしい光景だ」と負傷者の様子を語った。テロから3日たった3月24日現在、死傷者の氏名や国籍さえ未発表だ。

 米国は、犯行声明を出した「イスラム国(ISIS)」を弱体化させるため、連日、シリアの爆撃を続けている。そのニュースに接する時、次の一節が思い浮かぶ。音楽家、坂本龍一氏が、911の米国同時テロの直後に書いた文だ。

 「ぼくは思う。暴力は暴力の連鎖しか生まない。報復をすればさらに凶暴なテロの被害が、アメリカ人だけでなく世界中の人間に及ぶことになろう」(幻冬舎、「非戦」より)

 彼の懸念は、911から15年を経て、残念なことに的中した。米国からパリ、そしてブリュッセルへと。数字で見てみよう。911の後、米国が仕掛けたイラク戦争で、米軍兵士約4500人が死亡している。これに対し、イラク兵士と市民の犠牲者は、調査によって異なるが、少なくみても10万人と推定される。この10万人の無念は、どう記憶され、どんな影響を及ぼしていくのだろう。シリアもしかりだ。

60年代がテーマの
日本人監督のショー

 そんな中、日本人プロデューサー、出口最一(まこと)氏が手掛けたオフブロードウェー・ショー「トリップ・オブ・ラブ」を見た。主人公キャロラインが、「ラブ&ピース」の1960年代にタイムトリップする物語。60年代にヒットしたアップテンポでハッピーな曲を楽しみ、時代をほうふつとさせる衣装を着けたダンサーを見ているうちに、同年代を少しずつ回想させられるという構成だ。

 第1部は、ヒッピーカルチャー、懐かしいファッション、永遠のヒット曲にあふれている。ところが、第2部になるとベトナム戦争が影を落とす。明るく踊っていたダンサーらが、戦場に向かう。それまで、音楽に合わせて体を動かしていたご機嫌の観客が、シーンとなった。

 「トリップ・オブ・ラブ」は、60年代の「結晶」のような作品だ。同時に、戦争と平和について考えさせられた「反戦」の作でもある。世界中にいるハッピーで無垢(むく)な若者が、時代の波に巻き込まれていく様子を描写して、今、私たちが置かれた状況を重ねて考えさせる。

強制収容所を描く
タケイ氏の伝えとは

 今年に入ってからは、ブロードウェーショーの「アレジアンス」も観劇した。「スタートレック」以来、息の長い活動をしている日系人俳優ジョージ・タケイ氏(78)が、主演・プロデュースした作品だ。太平洋戦争開戦で、日系人だというだけで強制収容所に送られたオオムラ一家とその他の家族の現実を描く。財産の剥奪、薬を与えられず死亡する赤子、恋愛を引き裂く人種問題などの出来事が、音楽とダンスでつづられていく、ブロードウェーにしては珍しいミュージカルだ。

 一緒に観劇した米国人の友人に感想を求めると、こう答えた。

 「日米が戦った太平洋戦争中のことで、見るのが少し怖かったが、でも、伝えていかなくてはいけないことがある」

 アレジアンスの公演期間中、共和党の大統領選挙候補ドナルド・トランプ氏が、当時の日本人の強制収容所を支持する姿勢を示したことに対して、ジョージ・タケイ氏がユーチューブのビデオで反論するという一幕もあった。トランプ氏が、「現実はタフだ。その場にいないと、分からない」とコメントしたため、タケイ氏が「現実を見たいなら、アレジアンスに招待します」と応じた。タケイ氏の最後の言葉は、こうだ。

 「もし招待に応じないなら、あなたは臆病者だ」

 戦争が起き、普通の市民が受けてきたダメージが、「テロの時代」では無差別に襲いかかる。だからこそ、戦争の現実を振り返るミュージカルが、私たちに伝えるものは大きい。暴力は暴力の連鎖しか生まない。それに傷つけられるのは私たち自身だ。

現在上映中のオフブロードウェー・ショー、「Trip of Love」の1場面。

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

ベルギー同時テロ

3月22日にベルギーの首都・ブリュッセルのブリュッセル国際空港および、地下鉄マールベーク駅において発生した連続爆破テロ事件。2回の爆発が起きた空港では14人、地下鉄駅で20人が死亡した他、2カ所で日本人男性2人を含む200人以上が負傷した。事件後、過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。実行犯は空港で自爆したイブラヒム・バクラウィ容疑者、地下鉄で自爆した弟のカリド・バクラウィ容疑者を含む4人とみられている。欧州では昨年11月13日、パリで130人が死亡、300人以上が負傷する同時多発テロが発生した。

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