2016/03/18発行 ジャピオン856号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第23回 大統領選の裏で怒る有権者たち

米国人は怒っている
カナダ移住に注目?

 「アングリー!」「フラストレーテッド!」「アイ・ヘイト◯◯!」
 米大統領選挙の予備選挙を取材していて、よく聞く言葉だ。米有権者は、そんなに怒っているのかとびっくりする。そこで、データを探してみた。

 昨年12月の時点で、CNNなどの調査によると、国内情勢について「とても怒っている」か「やや怒っている」と回答した米国人は、69%にも上った。

 昨年11月のNBC/ウォールストリート・ジャーナル調査で、米国の政治は「ウォール街やワシントンの住人といった、金と権力を持ったインサイダーのためだけに機能しているようにみえる」ため、怒っているという回答が、やはり69%になった。

 今年1月のNBCなどの調査によると、多くの米国人が怒っているだけでなく、1年前よりもさらに怒りを増幅させている。特に共和党支持者(61%)と白人(54%)の怒りは強い。また、民主党支持者(42%)とヒスパニック系米国人(43%)、アフリカ系(33%)も、無視できない割合の人が怒っていることが分かる。

選挙戦のボランティア
戸別訪問に同行

 「スーパー・チューズデー(3月1日)」前の週末、マサチューセッツ州ボストンの郊外で、20代の若者たち4人が「戸別訪問」をするのを手伝った。ニューヨークからバンに乗り合わせてボランティアに駆け付けており、民主党のバーニー・サンダース候補事務所で出会った。一人につき、民主党に登録している40~60人の住所と地図を渡され、文字通り、ドアをノックして、投票に行くことを呼び掛ける。所要時間は、約4時間に及んだ。

 「投票所が開いているのは朝7時から夜8時までで、あなたが行くのは○○小学校の体育館です。ご家族や友人を必ず誘ってね!」

 滑らかに口上を述べて、カラー刷りのチラシをさっと渡す。

有権者の失望や怒り
言葉の暴力にとまどい

 私が同行した団体職員のエイダさん(23)は、スペイン語、トルコ語も駆使して、労働者階級が多い郊外の住宅地を効率良く回った。その彼女も私も驚いたのが、人々の怒りだ。

 「ヒラリーが嫌いだから、バーニーに入れるわ」

 「ヒラリーにも、オバマにも失望した。どこにこの怒りを向けたらいいのか分からない」

 約60軒を回り、日が落ちてからコンビニの駐車場に4人が集合すると、みんな「びっくりした」「言葉の暴力だった」と、その日の経験を語り合った。仲間のある女性は、高齢の女性に、無理やり家に上がらされ、40分にわたり、怒りの証言を聞く羽目になった。


カナダへの移住を
本気で考える人たち

 大統領選挙の年に「××が大統領になったら、カナダに移住してやる」という発言は、民主党、共和党支持者双方から聞く、4年ごとの決まり文句だ。しかし、今年は「本気度」が増している様子だ。特に、「もし、トランプ氏が、大統領になることがあったら…」という人が、すでにツイッター上で騒いでいる。

 米メディアによると、「How can I move to Canada?」という検索キーワードは、スーパー・チューズデーの晩、通常の350%の伸びになった。カナダの移民当局のウェブサイトもアクセスが殺到したようで、接続が遅くなった。移民専門の弁護士のところに問い合わせも増えているようだ。

 もちろん、カナダへの移住はそれほど簡単なわけではない。しかし、「怒り」と同時に、誰が大統領になるかどうかで、米国人の将来に対する「不安」も高まっている。

 戸別訪問で出会い、ヒラリー・クリントン氏への批判を繰り広げていた人たちは、そして、サンダース氏を信じて、ニューヨークから毎週末、予備選挙がある州に駆け付けている若者たちは、望まない誰かが大統領になった場合、どうなるのだろう。

 その一方で、誰を国家のリーダーにするのか、これだけ真剣に市民の間で議論があることは、うらやましい気もする。

ボストンの集会で演説する、民主党候補のヒラリー・クリントン氏(筆者撮影)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

スーパー・チューズデー

スーパー・チューズデー 米国大統領選挙において、10を超える州で2大政党の予備選・党員大会を一斉に行う、2月または3月初旬の火曜日の通称。2016年大統領選では3月1日に実施され、共和党は不動産王のドナルド・トランプ氏が7州で勝利して他候補を引き離した。共和党主流派が推すマルコ・ルビオ上院議員はミネソタ州、テッド・クルーズ上院議員は地元テキサス州と隣接するオクラホマ州、アラスカ州で勝利した。一方、民主党はヒラリー・クリントン前国務長官が8州を押さえ、バーニー・サンダース上院議員との差を広げた。

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