2016/03/04発行 ジャピオン854号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第22回 インディアンポイント原発の恐怖

NYの原発は大丈夫?
福島原発事故から5年

 東日本大震災が起き、福島第一原子力発電所の事故から5年がたつ。

 もう一度、震災全体の影響を数字で確かめてみよう。死亡者は約1万6000人、5年もたつのに行方不明者は約2500人。さらに、避難所で持病の悪化や自殺で亡くなる震災関連死は約3400人に上る。原発事故のあった福島県内では、その影響と、長い長い「復興」が続く。それは、他の被災した東北各県とはかなり異なる。例えば、現在も、いつ終わるか分からない廃炉のために原発で7000人、住民が避難を一度はしたという12市町村で1万9000人もの人が放射性物質の除染作業に当たっている。

終わりのない除染作業
被災関連死も突出

 福島県出身の女優、佐藤みゆきさんが県内各地の人々を訪ねるドキュメンタリー映画「1/10 Fukushimaを聞いてみる2013年」を見る機会があった。

 映画に登場した除染作業に当たる若い男性は、こう語った。作業員にならないかという話があったときは、汚染土を扱うため、1カ月ほど迷った。しかし、それで復興のためになるのであればと思い、作業員になった。放射性物質は、ドブの溝から、道路のヒビ、路肩の雑草まで付着していないところはない。終わりが見えない作業だ。しかも、永遠にゼロにはならない。

 もう一つ、ショッキングな数字は、被災関連死が福島県は突出していることだ。無理な避難やストレス、自殺による関連死は、福島県内で2013年12月、地震・津波による直接死の数を上回ったという報道があった。

 原発事故は、明らかに、地震・津波の被害を受けた東北各県の中で、福島県を孤立させている。原発と放射性物質から逃れるめどが立たず、半永久的に「以前の生活」には戻れないことを強いられているからだ。

福島から来米
専門家チームの訴え

 2月下旬、ニューヨークを訪れていた天野和彦氏(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター客員准教授)は、ホワイトプレーンズで開かれた集会「Fukushima, Five Years After」でこう訴えた。

 「避難路が必要なもの(原発)がどうして必要なんですか?原発の再稼動は、住民の安全と引き換えなんですか?それでいいのですか?」

 「地震・津波による災害と、原発事故による災害と、福島県民は二重のくびきを負わされている」

 天野氏ら専門家チーム10人は2月下旬の来米で、計3回に渡るイベントに参加し、福島の現状を報告した。実は、ホワイトプレーンズの集会は、ニューヨーク市から約50キロと極めて近い距離にあるインディアンポイント原発(ウェストチェスター郡ブキャナン)に対する反対運動を続けている住民が多く参加していた。彼らは、天野氏の言葉に真剣に聞き入っていた。


地下水が汚染
NYの原発も危険

 さなぜなら、インディアンポイントは、施設内の火事や爆発が続き、何度も運転を停止している古い原発だからだ。2月上旬には、施設内の地下水が汚染されていることが分かった。放射性物質の値が、通常に対し6万5000%にまで上昇したという。事態を深刻に受け止めたクオモ・ニューヨーク州知事が、原発を運営しているエンタジー社に対し、詳細な調査を要請している。

 同原発はハドソン川沿いに立地している。ニューヨーク州北部の飲料水源であるハドソン川は汚染されていないのか。さらに、ニューヨーク市民の飲料水が全量ためられる「クロトン貯水池」は、同原発からわずか12キロメートルしか離れていない。汚染は、本当に施設内の地下水だけにとどまっているのだろうか。

 福島は終わっていない。そして、学ぶことがたくさんある。訪米チームの丹波史紀氏(福島大学行政政策学類准教授)はこう話した。

 「原発に頼った生活は不健全なのです。その危険が世界で過少に見られています」

 インディアンポイント原発のことを考えると、彼の言葉はニューヨークにも当てはまる。

「Fukushima, Five Years After」の集まり(ホワイトプレーンズにて)より、福島からの専門家チーム。真ん中が天野和彦氏

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

インディアンポイント原発

ハドソン川の上流ウェストチェスター郡ブキャナンに位置し、ニューヨーク市と同郡に、電力需要の25%を供給している原子力発電所。1962年に1号機が稼働し、74年に2号機、76年に3号機が完成。1号機は既に廃炉となっており、稼働中の2号機が2013年9月に、3号機は15年12月に、40年ごとの免許更新期を迎えた。原発を運営しているエンタジー社は20年ずつの免許延長を求めており、米原子力規制委員会(NRC)が手続きを進めているが、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、原発の閉鎖を求めている。老朽化が問題となっており、15年5月には、変圧器から出火し、3号機が緊急停止する事故が起きた。

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