2016/02/05発行 ジャピオン850号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第20回 〝暴言王〟トランプ氏が人気の謎

トランプ旋風、なぜ?
「格差」がなせる技

 2月1日、アイオワ州の党員集会で、米国の今年最大のイベント、大統領選挙がいよいよ始まった。11月の投開票日まで、ほぼ1年がかりの行事だ。

 ニュースを見ていると、予備選挙の共和党候補で実業家のドナルド・トランプ氏の勢いが止まらない。

 これを書いている1日朝の同州での支持率は、共和党候補で実業家ドナルド・トランプ氏が28%でトップ。テッド・クルーズ上院議員が23%で追う。民主党側は、ヒラリー・クリントン元国務長官が45%で、バーニー・サンダース上院議員が42%だ(同州地元紙デモイン・レジスターとブルームバーグの調査による)。

 トランプ氏の発言は、むしろ暴言だ。

 「あの顔を見てみろ。誰が投票するのか」と別の候補でヒューレット・パッカード元最高経営責任者(CEO)のカーリー・フィオリーナ氏の風貌についてコメントした。相次ぐテロの後には、「イスラム教徒の米国入国を禁止するように要請する」と声明を出した。

 女性蔑視、移民差別、はっきりいって何でもありだが、支持率トップだ。一体、彼の支持者とは、どういう人たちなのか。

トランプ支持者の
抱える欲求不満

 米紙ニューヨーク・タイムズの分析によると、彼の支持者は「所得が低い」「教育レベルが低い」「投票にはいかない」白人が多いという。こうしたトランプ氏を支持している人は、南部の州、中西部の工業地帯、そしてニューヨーク州の一部などに集中している。

 彼らは、社会、経済をリードしてきた高学歴・高所得の支配層とは、相いれないというフラストレーションを持ち続けてきた。そこに、暴言を吐きながらも「アメリカを再び偉大な国にする」という、身近な存在に思えるトランプ氏が現れた。政治家としてのキャリアはないが、テレビではおなじみの顔だ。

 同様に、英紙ガーディアンが取材した有権者はこうも言っている。

 「(彼を支持するのは)政治に対するアンチテーゼでもある」

 こうした人々は、伝統的な政治家である候補者は気に入らなかったため、今までは投票にすら行かなかった。その声なき低所得層の人たちが、「トランプ氏こそは」と担ぎ出しているわけだ。

サンダース上院議員も
若者を引き付ける

 トランプ氏と同じく注目を浴びているのが、民主党候補でクリントン氏を脅かしているバーニー・サンダース上院議員だ。トランプ氏と並んで、メディアには「反乱者(インサージェント)」と呼ばれる。

 サンダース氏も実はトランプ氏と同じように、以前は投票所に行かせるのが困難だった若者層を引き付けている。

 「ウォール街も、支配層もない。これは、市民の市民による市民のための選挙なんだ」とサンダース氏がいうと、キャーッと歓声が沸く。自らを「社会民主主義者」と呼び、民主党の中では、あまりにも左派で本流ではないのに、徹底した平等の思想が、リーマンショック以降、大学を出ても就職もできず、既存の体制からはじかれていた若者たちをとりこにした。


かつては泡沫候補
いまや大人気候補

 「サンダース氏は、私たちに耳を傾けて、本当に大事な問題に取り組んでくれる」とテレビのインタビューにコメントする女学生。低学歴ではないものの、伝統的な候補者には、自分たちのことは分かってもらえないと思っていたのだ。トランプ氏同様、サンダース氏も、隠れていた有権者を発掘した。

 トランプ氏もサンダース氏もこれまでの大統領選挙であれば、「泡沫(ほうまつ)候補」となってしまうような存在だった。ところが、いまやマスコミに追い回されている人気者だ。逆に、大統領になるキャリアが十分にある、とされるクリントン氏や、元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏らの影が薄い。

 「トランプ旋風」「サンダース旋風」は、今米国が抱える深刻な格差問題で生じた現象だ。

共和党候補で、現在、支持率トップのドナルド・トランプ氏。写真は同氏のウェブサイトのトップページ

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

予備選挙と党員集会

民主、共和両党の候補者指名は、一般党員の代理人となる「代議員」が党全国大会で投票して決める。その代議員を選ぶのが、「予備選挙(primary)」や「党員集会(caucus)」となる。ここで各州の指名争いが行われ、州ごとに「勝者」が決まっていく。予備選挙になるか、党員集会になるかは州によって異なる。2月1日夜に行われるアイオワ州の党員集会が幕開けとなり、最も多くの州が予備選挙・党員集会を同時開催する、スーパーチューズデー(3月1日)が大きなヤマ場となる。その後、7月に行われる共和党全国大会と民主党全国大会で、各党の大統領候補が正式に指名される。

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