2016/01/08発行 ジャピオン846号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第18回 新聞、テレビは生き残る?

ネットでは得られない
旧メディアの魅力は?

 朝起きて、戸口に新聞を取りに行かなくなった。テレビもめったにつけず、ネットフリックスやユーチューブを見ている。新聞やテレビの若者離れが激しく、旧メディアはいずれ消えてゆくのではという懸念が、この10年ほどメディア業界で渦巻いている。しかし、普通の人々はあまり同様の懸念を持っていない。

 ニューヨークの地下鉄に乗ると、いまだに新聞や分厚い本を開いている老若男女を見る。電子ブックで本を読んでいる人もいる。東京の地下鉄や電車内は、新聞や本、いやマンガ週刊誌すら見ている人がいないのに比べると、ニューヨークは読書人口が多い。

 ニューヨーク・タイムズによると、本屋での本の売れ行きが増えているそうだ。ニューヨーク・タイムズの電子新聞(デジタル版)の購読者も、100万人を突破し、紙の発行部数に迫る勢いだ。

まだネットを上回る
書籍やテレビの人気

 また、一人当たりの1日平均で、テレビを見ている時間は、ネットを使っている時間よりもまだ上回っている。何よりも、オバマ大統領の記者会見はテレビで中継されている。彼がいかにインターネットをうまく使いこなす大統領であっても、ソーシャルメディアをテレビよりも優先するということは、まだ起きていない。
 
 アイフォーンが発売されて8年がたち、アイパットは5年たった。人々が24時間、無尽蔵の情報源につながる端末を手にして、それに慣れた結果、わずかながら、変化が起き始めている。つまり、旧メディアの見直しだ。

 例えば、筆者は朝起きると約2時間、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、英紙ザ・ガーディアンをアイパッドで読む。外出時は、本を抱えて歩き、暇があるとページをめくる。そこで気が付くのは、新聞(この場合デジタル版)や本というのは、没入度が高いということだ。集中して読めて、地下鉄で乗り過ごすことさえある。

消費者をつかむには
「没入度」がキーワード

 没入度のことを英語では「Immersion」という。実は、ハフィントン・ポストやバズフィードといったオンラインオンリーのメディアでは、マーケティングのキーワードにもなっている。没入度が高ければ、たくさんの読者が来て、滞在時間も長く、オンライン広告の単価も上がるからだ。しかしオンラインオンリーのメディアは、いまだに読者がどの程度の没入度を得ているのか、把握しかねている。

 確かに、オンラインオンリーのメディアというのは、刹那的な消費が主流だ。より面白おかしいネタを求める読者をツイッターなどで引き込むが、読者は一本読み終わると、再度ツイッターに戻り、他の媒体や、他の人のビデオやツイートを見たりしてしまう。

 つまり、デジタルメディアに対しては、読者のロイヤリティーが、新聞や本に比べて極めて低いことが分かってきた。例えばバズフィードだからという理由で、しばらくいろんな記事やビデオを見よう、という人が少ない。このため、アクセスを増やすために、ありとあらゆるソーシャルメディアを使い、ニュースのカテゴリーを増やし続け(オタク系、LGBT、動物…)、1日に出す記事の本数も増え続けている。しかし、アクセスを追い求めるだけでは、限界があるだろう。あくまでも「没入度」が重要だといえる。

オバマ大統領も
休暇には読書ざんまい

 案外、普通の人々は、旧メディアとデジタルメディアの間にこうした違いがあることを、無意識にだがよく理解している。だから、バズフィードは刹那的に使い、地下鉄の中あるいは休暇中は、本や新聞、雑誌に集中する。没入することで、体系だった「知」を手にすることができる。

 オバマ大統領は、夏休みに読む本のリストを発表する。昨年は6冊でペースは2日に1冊。オバマ氏のリベラルな政策に批判的な著者の本も含まれていた。首脳自らの読書リストに触発され、休暇の読書をまねする国民も間違いなくいるはずだ。

ニューヨークの地下鉄の中では、新聞や本などを読んでいる人がいまだに多い

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

バズフィード(BuzzFeed)

2006年にニューヨークで設立された、バイラルメディア(フェイスブックやツイッターなどのSNSの情報拡散力を利用して、インパクトや話題性のある動画や画像を中心とした記事に、短期間で爆発的なトラフィックを集めることを目的としたブログメディア)。創設者のジョナ・ペレッティ氏は、ハフィントン・ポストの共同創業者の1人としても知られている。アメリカでの閲覧者数は約8500万人とされる。昨年10月にフランス、スペイン、ブラジル(ポルトガル語)の各国版を公開し、日本版サイトは日本法人が開設準備を進めている。昨年12月16日、創刊編集長に元朝日新聞記者の古田大輔氏が就任したことが発表された。

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