2015/12/04発行 ジャピオン842号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第16回 シリア、パリ、そしてクイーンズ

テロを読み解くには
シリア情勢を知ろう

 混乱のシリアから目が離せない。そして、パリの同時多発テロ(11月13日発生)から半月たっても、シリア、パリ、そして自分が住むニューヨークへと思考が飛ぶ。世界は複雑に絡まっているが、少しずつひも解いてみよう。

 シリアのバッシャール・アル=アサド大統領から始めよう。1965年9月11日生まれの50歳で、2000年から現職だ。この若い「独裁者」の政権こそ、オバマ米大統領を始め欧州諸国の首脳が、どうしてもつぶしたいと思っているものだから、彼から始めるのが分かりやすい。

独裁者とISIS
受難の国シリア

 父や兄のような政治家・職業軍人ではなく医者だったが、兄の急死で後継者となり、苦労して政治家、そして大統領になった。しかし、「アラブの春」がシリアに飛び火すると、政策面の改革ではなく、武力で鎮圧を図り、死者が多数出た。西側の目の敵になったきっかけだ。国家元首が、自国の市民を、子供も含めて弾圧し、身の危険を感じた市民が、欧州に難民として殺到しているから当然だ。

 アサドの「暴政」とは別に、シリア国内にはイスラム過激派「イラク・シリア・ イスラム国(ISIS)」が跋扈(ばっこ)し、一部地域を占領した。シリア北部のラッカを首都と宣言している。このため、ジャーナリストの後藤健二さん他、米、英の人質を殺害した「スロートカッター」を標的として、米、仏はシリア北部に空爆を繰り返している。

 ISIS占領下のシリアの市民生活がどんなものか、「ニューヨーク・タイムズ」が、トルコに難民として逃亡した3人の若い女性にインタビューしていた。彼女たちは、ISISが来る前は、水着を含む好きな服装で、パーティーやデートに出掛ける普通の学生生活をしていた。しかし、ISIS占領後は、顔から全身を覆う衣装を強制され、お化粧をしたり、少しでも体の線が出る服装をすると「ムチ打ち」の刑にされる。彼女たちは、親にも告げずシリアを脱出した。

パリで起きたテロ
ISISが犯行声明

 パリ同時多発テロは、このISISが犯行声明を出し、オランド仏大統領も彼らの犯行と断定、「戦争」状態だと宣言した。コンサートホール、レストラン、競技場などを狙った犯行現場では、シリアのパスポートも見つかった。

 フランスと同盟国は、テロの直後にシリア北部を空爆。犯行を非難し、対決する態度を明確に示した。これが、ISISとその支持者に対し、重ねて敵愾(がい)心をあおることになるのは間違いない。

 一方で、パリ同時多発テロは、過去数年、スペインや英国、フランスで起きたテロと全く異なる「心理的ダメージ」を私たちに残した。

テロの標的に変化
場所を想定できない

 ニューヨークの国連で働き、現在はパリで働く友人の女性記者は、フェイスブックにこう書いた。

 「オーマイゴッド、襲撃されたレストランの向かいに私は以前住んでいたのよ」

 フランスの全国紙「ル・モンド」の記者も、最大の死者を出したコンサートホールの裏に住んでいた。銃撃から逃れるため、銃弾を受けて動かなくなった友人を抱え、あるいは非常口の外に倒れている死傷者を乗り越えて逃げる人々の、血も凍るようなビデオを自宅から撮影した。

 つまり、今回のテロは、中流階級の新聞記者が住むような普通のかいわいで、普通のレストランやコンサートホールが「標的」となった。ことし1月に風刺新聞に対して起きたテロ「シャルリー・エブド事件」の現場も同じかいわいだ。公共交通機関でもなく、タイムズスクエアのような観光名所でも、世界貿易センターのような資本主義の象徴でもない。テロはいまや、どこでも起こり得る。
 筆者が住むクイーンズは、マンハッタンに比べると住民の人種がさまざまだ。抗争があってもおかしくない「ミニ中東」だが、平和な均衡を保っている。「第3次世界大戦」という声さえある世界的な危機を考えると奇跡のようだが、安心はできない。

第3次世界大戦とならない工夫が、今後必要となってくる

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

シャルリー・エブド事件

2015年1月7日、フランス・パリ11区にある風刺週刊誌を発行している「シャルリー・エブド」本社に、覆面をした複数の武装した犯人が襲撃し、警官2人、風刺漫画の担当者やコラム執筆者ら合わせて、12人を殺害した事件。同紙の名物編集長で、風刺画家のステファン・シャルボニエ氏(47)も犠牲になった。同日発売されたシャルリー・エブドには、イスラム過激派を挑発する風刺画が掲載されており、過去にも同様の風刺画を掲載し暗殺予告を受けていた。実行犯であるアルジェリア系フランス人兄弟、シェリフ・クアシ(32)、サイド・クアシ(34)両容疑者は襲撃後、印刷所に立てこもったが、フランス軍治安部隊が突入して射殺された。

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