2015/11/20発行 ジャピオン840号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第15回 ベテランズデーの意味するところ

経済的徴兵の実態は?
ヤングベテランの葛藤

 11月11日午後、すっきりと晴れた青空の下、5アベニューでベテランズデーのパレードが、数時間にわたり延々と続いた。

 米国の祝日は大抵、曜日で決まっていたり(感謝祭は11月第4週の木曜日)、あるいは週末に加えて3連休にすることが多いが、ベテランズデーは、必ず11月11日で週の半ばにあることが多い。なぜか。

 それは1918年、第一次世界大戦が、11月の11番目の日の午前11時に正式に終わったとされているからだ。5アベニューのパレードも午前11時に始まる。その名もベテランズデー、つまり退役軍人の日だが、米軍の過去と現在のサービス(軍務)に感謝する1日だ。

軍人に敬意と感謝
米国における重要性

 6月末に開催される、同性愛者のプライドパレードなどに比べると、ベテランズデーの参加者は2万人とはるかに少なく、沿道の市民も比較的少ない。それでも、プライドパレードや各国のパレードが、ニューヨーク市警の超過勤務時間など警備コストを減らすために、時間や区間が大幅に削られているのに比べると、短縮されている様子がない。それほど、軍人に敬意と感謝を示す日というのは、米国にとって重要な日だ。

 第二次世界大戦、ベトナム戦争、朝鮮戦争、そして、直近のイラク戦争、アフガニスタン侵攻の退役軍人らがバンド演奏と共に行進(マーチ)すると、沿道の人が手や旗を降り、掛け声をかけて、温かいサポートを示す。一見のどかな光景だが、それだけの戦争をしてきた国が、全米でイベントを開き、「必要不可欠な」パレードをしていると思うと、複雑な気持ちだ。

 見守る側にも、自宅から戦闘服や正装姿で駆け付けた関係者がおり、マーチに対して敬礼するのを見ると、目頭が熱くなる。

若き退役軍人の苦悩
PTSDの悪夢の日々

 少し前に、「経済的徴兵」、つまり、大学に行ったり、定職に就くためのステップとして、米軍にリクルートされる若者たち3人から話を聞いた。皆数年の兵役を得て、現在マンハッタン区のカレッジに通い、ベンチャー企業を持つなどの夢を持って生活している。幸いなことに負傷で障害を持ったりしていることもなく、普通の若者たちに見えた。しかし、話を聞くのは、とても辛いものがあった。

 それぞれ、イラクとアフガニスタンで数カ月ずつ駐屯。それ以外の2年以上は、国内の基地で訓練をしてきた。しかし、戦場に行ったわずか数カ月のせいで、彼らは「もう元の自分には一生戻れない」と口をそろえる。いつ、破裂するか分からない仕掛け爆弾(IED)や、次々に眼の前で亡くなる同僚や士官。皆、戦地の話をするときは、無表情になり、目が宙を泳ぐ。何かを必死に押し殺しているからだ。

 こうした数カ月を過ごすと、命に対する何の心配も脅威もなく、マンハッタン区を歩いている「シビリアン(非軍人)には戻れない」という。後ろを歩く人が疎ましく、レストランや映画館に入っても、怪しい人物がいないか、無意識にスキャンしてしまう。一時も気が休まることがない「戦闘モード」から抜け切れない。

 さらに3人とも心的外傷後ストレス障害(PTSD)と葛藤していた。悪夢や、非軍人には、たとえ家族でも理解してもらえないというジレンマや不安と常に戦っている。中には、PTSDをコントロールし切れずに、離婚したり、ホームレスになったり、自殺するケースさえある。

祝賀ムードになれる?
痛みを抱えた祝日に

 ベテランズデーの日、思い出して彼らの消息を尋ねると、バーでけんかをして一人が負傷。もう一人は、不安から授業に出られなくなり、卒業するのに必要な単位を取るのに苦労していた。

 「ハッピー・ベテランズデー」と彼らにテキストしてもいいのか、私には判断できなかった。おそらく、多くの兵隊やベテランが、複雑な気持ちで11月11日を迎え、彼らを取り巻くさらに多くの家族や友人が同じ気持ちで、この日を迎えているに違いない。

マンハッタン区で行われたベテランズデーのパレード。退役軍人の中にはPTSDに苦しむ人が多い

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

NY市のベテランズデーパレード

11月11日に開催された、第96回目を迎えるベテランズデーのパレードには、退役軍人やマーチングバンドを含む2万人以上の参加者が、マンハッタン区の5アベニュー沿い、26ストリートから52ストリートまでの約1.3マイルを行進。ビル・デブラシオ市長も行進に参加し、その模様はテレビ中継された。駆け付けた多くの群集が、星条旗を振りながら「USA! USA!」と叫んだり、声援や感謝の言葉を退役軍人らに送った。また「Apple- bee’s」や「Denny’s」などの外食産業では、ミリタリーIDなど退役軍人であることを示す身分証明書を持参した人に対し、食事の無料提供や特別割引などのサービスを実施した。

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