2015/11/06発行 ジャピオン838号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第14回 フェアウェイの売り上げ落ち込み

スーパーの淘汰始まる
ミレニアルめぐる競争

 とうとう、来るべきものが来た。人気のスーパーマーケット(グローサリーストア)「フェアウェイ(Fair- way)」の売り上げが落ち込み始めたのだ。

 フェアウェイは、1933年にアッパーウェストサイドで創業を開始した。第1号店は、拡張のために、周りの建物を継ぎ足していった様子が今も手に取るように分かり、ごちゃごちゃとしている。

 黒人の配送担当や、ラティーノの陳列担当が、商品の箱や買い物バッグをせわしなく運び、体格の良いセキュリティーガードが、万引きする人がいないか目を光らせている。ニューヨーク中のグルメが集まるとともに、騒々しさがいかにも当地らしい食品ストアだ。

 その後、全米規模の拡張を続け、ニューヨーク地区には15店舗がひしめく。この数年、急速に増えた感じがしたし、東海岸だけで300店舗ほどの新規オープンを発表していた。

 ところが、10月29日に発表された四半期決算で、売上高が1年前より1500万ドルも減少し、1億7900万ドルだった。

消費動向を変えた
ミレニアル世代の存在

 原因は過当競争だ。拡大前のフェアウェイは、どちらかというとアッパーウェストサイドの「ゼイバーズ(Zabar’s)」のようなスーパーマーケットだった。選りすぐりのコーヒー豆やチーズ、パスタなどをそろえた上に、野菜や肉、魚を扱い、「セレクト」されたものが売りであり、「健康」「環境」といったキーワードはなかった。

 しかし、フェアウェイの方針を転換させたのは、「ミレニアル」世代だ。ミレニアルは、1980年代から2000年代に生まれた若い消費層。いまや、米国の消費者層の3分の1を占めている。

 この世代は、働いてお金ができたら、良いものを買い始めるという「ベビーブーマー」世代とは全く異なり「等身大」だが「クオリティー」がある生活を好む。中でも、大企業が狙っているのが、高所得者層のミレニアルだ。彼らは少し所得があれば、価格が割高であっても、質が良い食品や生活用品を選ぶ傾向がある。

 こうして、フェアウェイだけでなく、「ホール・フーズ・マーケット」も他のスーパーマーケットも、「フリートレード・コーヒー」や「ケージフリー・エッグ」、「オーガニック・ワイン」、ローカルの産地直送野菜などを売り始めた。

 こだわり生鮮素材を売りにしている「チポトレ」や、手ごねハンバーグの「シェイク・シャック」といったレストランもミレニアルを狙っている。

 生鮮食品については、この他にもライバルがいる。「フレッシュ・ダイレクト」や「ブルー・エプロン」といったオンライン・グローサリー業者たちだ。店舗を必要としない彼らは、安い食品をそろえているが、選択肢として、ミレニアルが欲しがる、環境に優しく、発展途上国を支援できる食品の品ぞろえもある。

消費者数に対し
多過ぎる業者が問題

 ニューヨーク、特にマンハッタン区の人口は増えるはずもなく、家賃の値上がりもあり、むしろ高齢化さえしている。それなのに、ミレニアルの「財布」と「胃袋」を狙った食品小売りやレストランが殺到しているというのが現状だ。

 ミレニアル争奪戦で全米、いや全世界的にダメージを受けているのがマクドナルドだ。こだわりではなく、安さと満腹度だけに訴えてきたマクドナルドの商品は、ミレニアルには全くアピールしない。このため、スイスのマクドナルドでは、ソースに漬け込んだ上、コトコト煮て柔らかくなるまで調理した「スロー・クッキング」の肩ロースバーガーまで登場した。現在、商品はスイス国内限定だが、ミレニアルを意識したメニューを世界のチェーン店が狙い始めるのは時間の問題だろう。

 ミレニアルは、新しい消費者層として、従来の流通や商売主義を変える可能性がある。それは歓迎すべきだが、それを先取りし過ぎて、フェアウェイのような大企業の業績が悪化した。ミレニアルの登場に期待をしていただけに、やるせない結果だ。

フェアウェイは、拡大戦略を見直す時が来ている

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

ミレニアル世代

1980年代から2000年代前半に生まれた世代のことを指す。幼い頃からデジタル機器やインターネットに接しているため、SNSに積極的に参加している。フォーブス誌が今年1月20日に発表した記事、「ミレニアル世代の消費者に関する10の新事実」によると、ミレニアル世代は米国だけで8000万人存在。1年間の購買力は2000億ドルにも上る。同誌が1300人のミレニアル世代を対象に実施した調査結果によると、「広告に影響されにくい」、「車は購入、家は借家という傾向がある」、「買い物をする前に情報を(テレビや雑誌ではなく)ブログでチェックする」、「商品の内容より、信頼性を重視する」といった消費動向が明らかとなった。

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