2018/03/23発行 ジャピオン959号掲載記事

第10回 M&Aの目指すべき姿

ギャップ跳ね返す
相乗効果を伝える

 日本人や日本企業の立場からすると、「日本企業が米国企業を買収する」ことについて、おおむね、好意的に見られていると期待するのではないかと思います。

 確かに、日本企業は技術を持っている、ハードワークで尊敬できる、といったポジティブな評価をする人も多いですが、一方、日本企業が北米企業の買収を検討する際には、意思決定が遅い、DDでの質問が細か過ぎる、何の前触れや理由もなく突然買収検討を中止されたなど、対日本企業とのディールで苦い経験をしている現地の「Investment Banker」も意外と多いように思います。

言語、習慣の違い
シナジー効果で打破

 
 クロスボーダーM&Aには、このようなハンディキャップがどうしてもあります。日本人同士では理解できるようなことでも、アメリカ人にとっては、言語や習慣が違い、またアメリカのM&Aを進めるに際しては暗黙のルールのようなものもありますので、それを逸脱してしまうと、日本企業の対応が理解できないようなケースがどうしてもあるように思います。

 その意味でも、そのハンディキャップを跳ね返すくらいのシナジー効果を発揮できる買収になるよう、そのM&Aで達成したいことの目的を考え、それを売り手であるアメリカ企業側へきちんと伝えていくことは重要であると考えています。では、そのようなシナジー効果を発揮できる案件とはどのようなものでしょうか。

 最近のM&Aの例ですと、昨年「Amazon.com(アマゾン)」が買収した「Whole Foods(ホールフーズ)」の事例は、米国企業同士の案件ですが、多くの相乗効果が見込め、シナジーを考える上で参考になる案件だと思います。

 まずシナジー効果として分かりやすい点は、ホールフーズが有しているプライベートブランドをアマゾンのサイト経由で販売することです。これにより、収益性の高いプライベートブランドを拡販できるだけではなく、大量購入による購入原価の削減、更には、アマゾンにとっては、差別化された製品をアマゾンのサイトで販売できるというメリットもあります。

 更に、アマゾンとしては、生鮮食品のビジネスを拡大することができます。これまで生鮮食品のオンラインでの販売は難しいと言われてきましたが、ホールフーズの店舗があれば、アマゾンで注文した生鮮食品をホールフーズの店舗で受け取ることができますし、さらには、広い店内を歩き回る必要がなくなりますので、顧客にとっての利便性も向上します。一方、アマゾンのサイトで生鮮食品を含む食料品の販売を拡大できれば、それだけアマゾンのサイトのビューワーが増えて、広告料の増加につながり、収益の向上にもつながります。

 加えて、ホールフーズが有している生鮮食品や食料品の購入データをアマゾンのウェブサイトやサービスと統合できれば、消費者のニーズ(例えばAという商品を買う人は、Bという商品を買う傾向がある、Cという商品を一定間隔で購入する、等)を把握して、先回りして広告することにより、顧客の囲い込みができるといった効果も見込めるように思います。

 これら以外にも、アマゾンの自動化された効率的なシステムをホールフーズにも導入できること、アマゾンを後ろ盾にすることによるホールフーズの取引先との交渉力の拡大、比較的富裕層が多いホールフーズの顧客の取り込み、ホールフーズの店舗網拡大戦略におけるアマゾンからの資金面でのサポート等、さまざまな買収の効果が見込めそうな案件のように思われます。

良い影響を与える
望むべき相乗効果

 
 これまで日本企業が北米企業の買収を考える際のシナジーとして考えられてきたのは、例えば自社の良い製品の販路を北米にも広げたいという顧客網・販売網の拡大、自分たちの技術と、買収先の技術を組み合わせてより競争力の高い製品を開発するための特許・ノウハウ・技術の獲得、あるいは、時間を買う観点からの設備の獲得、優秀な人材・経営者の獲得、ブランドや免許・許認可の獲得などでした。

 もちろんこのような理由でM&Aを検討する企業が今後も大多数であるとは思いますが、今回のアマゾンとホールフーズの事例は、それ以外のもっと多面的なシナジーが検討できる案件として、今後、このようなシナジーの事例が増えてくればM&Aの価値というのは、ますます高まるのではないかと思います。

 今回のアマゾンとホールフーズの事例は、取引先や競合にとっては、脅威となる統合であるかもしれませんが、買収するアマゾン、買収されるホールフーズ、加えて、ユーザーである消費者にとってもプラスの効果があるディールだと思います。このように、買収先の従業員にとっても、社会にとっても良い案件というのが、日本企業が目指すべきM&A案件であるのではないかと思います。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、DCSアドバイザリー社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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