2018/02/23発行 ジャピオン955号掲載記事

第9回 デューディリジェンス

買収成功させるため
DDで見るべきこと

 アドバイザーの仕事を長年やっていると、仮に買収検討の初期段階であっても、そのディールがうまくいきそうか、それとも途中で頓挫しそうか、何となく想像することができます。

案件の成否
 
 うまくいきそうなディールというのは、会社として一枚岩で取り組もうという姿勢が最初から明確で、社内をまとめ上げる調整力・突破力のあるディールチームがいて、かつ、買収される対象会社に対する配慮やリスペクトが感じられます。結果として、両者面談等を行う際には、相手側と良い雰囲気や信頼感を作り出すことができ、案件がうまくいくというケースが多いように思います。

 一方、案件が頓挫してしまいそうだな、と思うケースは、社内に強い意見を持つ反対派がいたり、「俺たちのような企業に買収されるのだから相手も喜ぶはずだ」と上から目線であったりするケースです。

 そのような場合は、デューディリジェンス(DD)等で資料請求を行うときも、相手の立場を考えずにこちらの主張を押し通そうとする傾向があります。結果として相手が「もうやっていられない」と逃げて行ってしまうようなケースもありました。

 ディールの初期に、このような見立てを持つことはありますが、それでも、DDを行った結果、「思ったほどのシナジー効果がない」「技術力がそれほどでもない」ということで、途中で断念するケースもあります。そういう意味でも、DDで何を見るのかというのは非常に重要なポイントです。

目的別に多様なDD
 
 DDの期間は、ケースバイケースですが、おおむね2〜3カ月くらいの短い期間で集中的に行うことが一般的です。まず、DDに必要な資料依頼リストを提示し、出てきた資料を精査した上で追加質問を行ったり、インタビューを実施したりします。資料要求に際しては、出てきた資料の内容を見るだけではなく、資料の開示がスムーズに行われるかを確認することで、社内資料の整備状況等も推測することができます。

 DDには、ビジネスDD、会計・税務DD、法律DD等があります。

 ビジネスDDでは、対象会社が行っている事業の市場規模、成長性の予測、販売を担当する営業体制、顧客リストや仕入れ先、競合の状況や製品の強み、あるいはどのような技術を有しているかなどを調査します。

 また、工場の設備を確認して、将来必要な設備投資額を見積もり、経営者の能力や考え方を会話等を通して判定し、その経営者を買収後も雇用するかどうか判断します。その上で、将来収益の相乗効果、あるいはコスト削減のシナジー効果を予想して、将来の予想財務諸表を作成し、それを基に企業価値を算定し、買収価格を検討します。

 一方、会計・税務、法務DDに関しては、会計士・税理士、弁護士等の専門家に依頼することがほとんどです。会計・税務DDでは、膨大な確認項目がありますが、例えば、売上が一部の会社に集中していると、万一、その会社が倒産したり、取引条件を変えられたりすると、連鎖倒産や大幅な売上減のリスクがあるため、その点を注視したり、何年も倉庫で眠っている在庫がある場合、将来、その在庫を損失計上する可能性が高いため、そういう在庫の有無を確認します。

 また、税務DDでは、過去の税務申告が適正に行われ、将来追徴課税をされるリスクがないことを確認し、また、例えば、その会社を、日本の親会社で買収するのか、あるいはアメリカに子会社を設立して(あるいは既存の子会社を活用して)、その子会社が買収主体にするのとでは、どちらの方が税務上有利であるかなどのストラクチャーを検討します。

 法務DDに関しては、将来損害賠償が発生するような訴訟の有無、重要な取引先との契約に何か不利な条件が含まれていないか、あるいは連帯保証のような債務保証を行っていないか、クレームを受けたり、当局からの行政処分やコンプライアンス違反を行っていないか、労働組合との関係等を確認します。

 例えば、重要な取引先や銀行からの借入契約には、親会社が変更となる場合には、取引を停止できるような「チェンジオブコントロール条項」がある場合がありますので、そのような場合は、契約締結後に取引先や銀行等と取引が問題なく継続できることを確認することが必要になります。

 これ以外にも、工場の土壌汚染がないか、適法に環境対策を行っているかを環境DDで確認したり、人事面でも、競合他社や近隣地域企業との給与水準の比較等も人事コンサルタントにお願いしてDDを実施するケースもあります。

適切なDD実施が鍵

 DDで発見された項目については、内容に応じて、買収価格を調整・減額させるのか、あるいは契約書の中にクロージングの条件として盛り込み、クロージングまでに懸念事項が解消されるよう、取り組みを行います。

 その他DDで気を付けることは、例えば、著作権の侵害、土壌汚染で健康被害で訴えられる、などがある場合、仮に10億円の買収であっても、10億円以上の損害賠償を求められるケースもゼロではないことです。ここまで極端なケースはまれですが、短い期間で膨大な資料に圧倒されながらも、DDを適切に実施することは、企業買収に際しては、非常に重要なことといえます。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、セージェントアドバイザーズ社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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