2018/01/26発行 ジャピオン951号掲載記事

第8回 M&Aの展望2018

M&Aは増加の予想
適正価格の見極めを

 新年を迎え、株式相場はより一層活況になっています。 NYダウは過去最高値を驚くべき速さで更新していることに加え、日経平均もバブル期以来の高値を記録し、現状の日本企業の好調さを見る限りでは、北朝鮮問題などの地政学リスクが高まらない限り、この勢いは当面続きそうな雰囲気です。

M&A増加の要因
 
 M&Aも増加する要因がかなりあるように見受けられます。昨年末に米国の税制改正の方向性も見えてきましたし、米国企業の余剰現金が増加していること、投資ファンドの投資余力も非常に高まっていることから、米国内でのM&Aは増えることが予想されます。

 さらには、法人減税でアメリカ企業の手元資金が増えることが予想され、新税制では企業が海外に滞留させている資金を米国に戻しやすくなること、更には、米国上場企業の株価が上昇していることもあり、現金あるいは株式を対価とした大型の買収も2018年は増加するのではないかと思います。

 一方、日米のクロスボーダーM&Aも増える可能性が高いと考えています。

 日本企業も、業績が過去最高水準で、海外への投資に目を向けている企業は増えてきており、日本企業もM&Aにかなり慣れてきたこともあり、M&Aという選択肢は、過去に比べても明らかに身近になっていることを感じます。また、北米で1件のM&Aを行うと、その買収した対象会社の経営陣等を経由して売り案件などの情報が入ってきますので、そのような経緯でM&Aの件数が増えていくことも考えられます。

 では、売却をしたい企業があるのか、という点につきましては、業績が悪いから資産を切り売りするというケースは減少するかもしれませんが、日本市場対比でもアクティビスト投資家と呼ばれる株価・業績向上のために企業変革を求める投資家が米国では多いため、米国企業によるノンコア事業の売却は今後も一定程度考えられると思います。

 また、米国企業は、総じて日本企業よりも収益性が高く、日本では高い収益性とみなされる営業利益率10%程度のような事業でも米国企業では事業戦略の見直し等によりノンコアとみなされることがあるので、日本企業にとっても、買収機会はあるのではないかと思います。

 また、税制改正で法人税が35%から21%に下がったことにより、将来企業に残るキャッシュフローが増加することが予想されることから、企業価値は確実に向上し、企業の売却価格も上昇します。このタイミングを見計らって、投資ファンドが現在持っているポートフォリオ企業の売却に動き出すケースも増えていくのではないかと考えています。

適正価格を見極める
 
 一方、日本企業にとっては、「価格が高い」と思うようなケースが増えてくると思います。これは、減税による将来のキャッシュフローが増加するため、適正である部分と本当に高過ぎるケースとで分けて考える必要があると思います。何でもかんでも「高い」と言って、せっかくの良い案件を諦めるのはもったいない一方、「適正な価格」を見極める視点での企業調査及び企業価値評価がより重要になってくると考えています。

 また、外国企業による米国企業の買収に関する規制強化についても注視していく必要があります。中国企業が米国のハイテク企業を買収しているケースが増加していることに対しての懸念が強まっていることが発端になっており、基本的には、日本企業よりも中国企業への影響が大きいと考えていますが、日本企業も自動運転技術、軽量化に貢献するような素材、医療分野、ロボット、AI、IoT等、高い技術を持ったハイテク企業の買収を検討する機会が増えているため、今後、該当する案件が増えてくる可能性があります。一方、オークションプロセスの場合、中国企業との買収の競り合いになる場合には、売り手は、案件実行の確実性の観点から日本企業を選ぶケースがあるかもしれず、有利に働くケースもあるかもしれないので、現時点では状況を見定める段階かと思います。

 また、これまでの日米クロスボーダー案件ですと、「日本企業が米国企業を買収する」ケースが大半を占めていました。しかし、最近では、米国企業(あるいは米国投資ファンド)が日本企業を買収するケースも増えております。不祥事などによって、資産が切り売りされてしまうケースも散見されますが、事業を広げ過ぎた企業が、コアでない事業を売却するケースがこの数年で増えており、日本企業の大きな変化であるとともに、この流れは、今後も増えていくと考えています。

 最近では、M&Aで大きく成長を遂げている企業とそうでない企業の二極化の傾向が確実に強まっていることを感じます。仮に最初の買収で失敗したとしても、そこからM&Aのやり方を学んで数々のM&Aを成功させている企業が増えている一方、いつまでも社内検討を続けて中々一歩前に進めない企業もまだかなりあります。結局M&Aはトップダウン、企業のトップがどのようなビジョンを持っているか、正しい意思決定を迅速にできるかという点がますます重要になっていることを感じます。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、セージェントアドバイザーズ社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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