2017/12/22発行 ジャピオン947号掲載記事

第7回 買収後に考えること

買収後に起こること
「仕組み」作りが大切

 企業の買収を公表するとき、そのM&Aが将来失敗すると予想する人はいません。買収公表のときは、これまでの連日連夜の交渉や膨大な量の業務量を決まった時間内に遂行する緊張からの解放感があって、私たちアドバイザーにとっても、一番幸せな瞬間です。

 とはいえ、買収公表後に、全てがそう簡単にうまくいくわけではありません。最も難しいのが、対象会社の役員や従業員の心をどのようにしてつかむか、ということです。買収したものの、従業員や新経営者が要望を聞いてくれない、思ったように働いてくれない、訴訟を起こされる、労働市場が流動的ですぐに転職してしまうなど、買収側にとって、頭の痛い問題は尽きません。中でも想定外コストの発生、新経営者との信頼構築、労働組合との関係、というのが特に重要かと思います。

買収後起こる問題
 
 北米企業を買収する日本企業の場合、対象会社側の現経営陣に、買収後もそのまま残ってほしいと思うケースが多いようです。その場合、現経営陣や従業員に対して、リテンションボーナスを支払うケースがあります。これは日本企業には、あまりなじみがない場合がありますが、例えば、買収完了時に、買収後も〇年会社に残ることを前提にボーナスを支払い、買収後数年後にある一定水準の業績を達成すれば、さらに一定の金額を支払うなど、支払い方法や条件はさまざまあり、また、リテンションボーナスを支払うか、また支払うとしてもどの程度支払うかは業種や地域にもよります。

 例えば、人材の流動化が激しい金融業界では、リテンションボーナスを検討せざるを得ないケースが多く、一方、地方の中小都市の小さな工場で転職先を見つけることが難しい場合ですと、ボーナスを払わなくてよいケースもあります。

 特に、北米企業の買収を初めて行う日本企業の場合、このような北米企業の報酬体系に不慣れなことに加え、買収価格がほぼ決まった後の、買収交渉の後半で突然論点として提示されることもあるため、思わぬコスト増要因になり面食らうことがあります。

買収後の人事
 
 次に、買収後にそのまま残ってもらったマネジメントが言うことを聞かないケースもあります。もちろん、DD(デューディリジェンス)の際にマネジメントともインタビューを実施し、その人柄も含めて残留を判断するのですが、一方で、対象会社の社長をはじめマネジメントは、高値で売却ができたら、売り手から特別報酬が支払われるような契約になっているケースもあるので、買収が完了するまでは、非常に友好的に振る舞うものの、買収後に態度が変わったり、そこまで露骨でなくても、買収後に考え方に違いがあって折り合いが悪くなるというケースも少なくありません。

 労働組合の存在も気になる点です。労働組合のある企業は、買収後に賃上げ交渉をしてくるケースも多く、そこでコミュニケーションを誤ると労働争議につながったり、訴訟を起こされたり、難しい対応が迫られるケースもあります。従って、このような人事面の問題を最小限に抑えるためにも、実際に買収を検討する段階で細心の注意を払いながら進める必要があります。

 例えば、DDのときに、あまりに厳しくやりすぎたり、交渉の際に強引に押し込んだりすると、その嫌な経験が対象会社側に強く残ることもあるので、そのようなときは、私たちのようなアドバイザーが極力その場面で泥を被る役を演じたり、価格提示についても、最初に提示した価格から大幅に後から価格を下げると信頼関係に影響が出るケースがあるので、神経を使います。また、買収する際には、買収側にある程度従ってもらうためにも、どこかで、「嫌な話」をしなければなりません。それをどのタイミングでどのように行うのかというのも重要な検討事項です。

 難しい人事問題に関しては各企業はさまざまな解決法をとっています。

 あるメーカーの事例では、製造部門責任者のインセンティブ賞与を、安全稼働の指標に加えて営業利益も加味した結果、逆に効率的な稼働を実現しました。他の事例では、買収企業側はグローバルに販売網を持っている一方、対象会社は、技術は持っているものの、販売網を持っていなかったため、グローバルな販売網を活用することによって、売上の大幅な拡大を実現し、結果として、社員のモチベーションを上げることに成功した企業もありました。

 また契約締結前に対象会社の役員と従業員を買収側の日本企業に招待し、その整備された高い技術を持つ工場を見学させて、彼らが、この企業と組むことがきっとプラスになるに違いないと確信させ、彼らが帰国後に、買収会社が素晴らしい技術を持っていることを伝えて、対象会社全体に良い雰囲気を与えることに成功した企業もありました。

仕組み作りの重要性

 M&Aを成功させるためには、数々のうまくいく「仕組み」を作り出してそれを実行していくことが重要です。シナジーが見込めるM&Aであれば、このような仕組みも考えやすく、業績向上による対象会社従業員のモチベーション向上も図りやすいため、シナジーが見込めるM&Aを実施することは、人材マネジメントの観点からも重要と言えます。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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