2017/10/27発行 ジャピオン939号掲載記事

第5回 企業の価値はどう決まるか

企業価値の算出法
形態、業界、シナジー

 ト企業の買収価格を決めていくプロセスというのは、ただ単に、「会社の価値を計算する」というものではなく、買収する側の企業の考え方、期待・思い、将来の見通し等が全て詰まっているもので、どの会社も熟慮を重ねて買収価格を決定します。では、一体、買収価格というのはどのように決まるものなのでしょうか。

上場、非上場会社
 
 例えば、企業の価値を評価する際に、上場会社の場合には、市場で取引されている株価がありますので、そこから株式価値、企業価値を算出することができます。一般的に、株価×発行済株式数がその会社の株式価値(=時価総額)になり、それに負債(借入等)の金額を足して、現金の金額を控除したものが企業価値となります。

 一方、上場していない企業には、市場で取引される株価のようなものがありませんので、違う手法を用いて企業価値の評価を行います。

 よく使われる手法として、ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)、類似会社比較法、類似取引比較法といった手法があります。分かりやすく言いますと、DCF法は、買収対象会社(あるいは事業)が将来生み出すキャッシュの金額を、売り手から受領した財務数値などから予想し、その予想した将来のキャッシュフローを、その事業の特性に応じた割引率を使って割り引いた後に、その将来のキャッシュフローを足し合わせて企業価値を算出する方法です。

 例えば、毎年10億円のキャッシュを稼ぎ、事業の特性から割引率を10%とした事業がある場合、1年後に稼ぐキャッシュの現在価値は10億円÷(1+10%)=9・09億円と計算され、2年後は8・26億円と計算され、これらの各年に稼ぐキャッシュフローの現在価値を足し合わせて、企業価値を計算します。

 なお、割引率については、将来の事業が不安定であるほど高くなる傾向があり、途上国や政治的に不安定な国の場合は割引率は高くなる傾向があります。

類似事業の価値算出
 
 一方、類似する事業を行っている上場会社の企業価値がその上場企業の利益金額(あるいは売上金額)の何倍で取引されているかを計算し、対象会社の利益金額(あるいは売上金額)にその倍率を掛け合わせて対象会社の企業価値を算出する手法を類似会社比較法、類似する事業を行っている会社が利益金額(あるいは売上金額)の何倍で買収されたかを計算し、対象会社の利益金額(あるいは売上金額)にその倍率を掛け合わせて買収金額を見積もる手法を類似取引比較法と言います。この際に、最も使用される利益指標がEBITDA(営業利益に減価償却、その他償却金額を足したもの)という指標で、例えばある企業の買収が公表された際には、よく「EBITDA倍率の〇倍で取引された」というような使われ方をします。

 その中でも、買収金額を決定する際に、一番用いられるのがDCF法です。

 DCF法のメリットは、その会社を買収した場合に、例えば、①買収される会社が持っている製品と自社製品をパッケージで販売すれば、販売価格を高くできて利益率が高くなる②買収される会社側が持っている販売ルートに自社製品を販売できれば売上向上が期待できる、③自社の工場運営ノウハウを買収対象会社に適用すれば、コスト削減が期待できる、などの相乗効果(シナジー)を見積もり、それを将来のキャッシュフローの予測値に反映することができるため、相乗効果を加味した買収可能金額を算出することができます。

 一方、電力業界や鉄鋼業界といった将来のキャッシュフローをある程度見通しやすい業界と、成長著しいITベンチャーのような、将来のキャッシュフローを見通しにくい業界がありますので、DCF法を一番参考にしながらも、他の手法で算出された結果も考慮しながら買収金額を決めていくことになります。

 加えて、会社の調査(デューデリジェンス=DD)の過程で、例えば①設備が古いので、新たな設備投資が必要②訴訟が起こっていて、将来的に費用の支払いが発生しそう③土壌汚染が見つかって、その改良費用が発生しそう、といったマイナス要素が見つかった場合には、それらのコストを将来獲得できると予想しているキャッシュから控除して、企業の価値を算出することになります。

今後取るべき対策

 それでは、日本企業による今後の対米国M&Aは、今後のトランプ政権の運営によって、どのような影響があるでしょうか。

 まず、一つには、トランプ政権の「アメリカファースト」の政策から、一部の輸入品については関税強化を推進する可能性があります。そうすると、米国に製品を輸出している一部の業種においては、現地企業の買収を検討するケースが増えてくる可能性があると考えています。

 一方、トランプ政権発足に伴う株価上昇などによって、非公開企業の買収においても、買収金額が高過ぎるのではないか、と思うケースが増えているように見受けられます。従って、適正に企業価値を評価しても、オークションプロセスで敗退するケースが一時的に増えたり、売り手の売却価格目線が高くなることにより、買収金額で折り合わないケースが出てくる可能性があります。

 今後、税制改正の方向性が明らかになり、米国企業の海外内部留保が米国内に還流してくると、元々、投資ファンドの投資余力も過去最高水準で、買収資金を調達する借入金利も低い水準で推移していますので、M&A自体は活発化する一方、高めの取引金額になる案件が増えてくるのではないかと考えています。

 また中国企業の北米をはじめとした海外投資が、中国政府の政策上、今年になって抑制されていることも間接的な政策の影響と言えます。規制当局が買収による中国企業の負債増加を嫌気して、買収自体を差し止めるような事例が出ており、実際に、オークションで中国企業が一番高い札を出しても、案件完了の不確実性から他の買い手と契約するケースも出てきています。

 そういう観点からは、日本企業にとっては、北米のM&A市場でのプレゼンスを向上させるチャンスでもあると思っています。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、セージェントアドバイザーズ社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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