2017/09/22発行 ジャピオン934号掲載記事

第4回 政治動向

政治と税制の変化
M&Aへの影響

 トランプ氏が大統領に選出された際、M&Aは件数、金額共に増加するのではないか、というのが大方の見方でした。経営者のバックグラウンドを持つ大統領は、企業やビジネスの世界にフレンドリーな政策を実行し、税制改正による減税も実施する期待が高く、株価は、就任後、大きく上昇しました。

 しかし、M&Aの観点で見ますと、2017年上半期の米国のM&Aの金額・件数は、この数年で最低の水準を記録しました。大統領就任後、トランプ氏がなかなか政策を実行に移せず、今後の政策の見通しが不透明であることも、M&Aに対して慎重になっている一因のようです。税制改正の全容がはっきりするまで、規模の大きなM&Aを控えると表明している米国企業もあります。

気になる税制改正
 
 このように、政策とM&Aは、深いつながりがあります。その中でも、今後のM&Aの動向に大きな影響を与えそうな政策が税制改正です。現在、トランプ大統領は、連邦法人税の最高税率を35%から15%に減税すると表明していますが、これが本当に実現するのか、また実現するとしても、どのくらいの税率になるのかが不透明であるため、買収する事業の将来のキャッシュフローが見通せず、結果として、M&Aの実施についても様子を見る動きになっているようです。

 また、米国企業の海外子会社の内部留保を米国内に還流する税金を、一時的に引き下げることも検討されており、それが実現すれば、米国内により多くの現金が流入することになるので、米国企業にとっては、M&Aに使える資金が潤沢になることが期待されています。税制改正の行方は、今年後半から来年にかけてのM&Aの動向を占う上での重要なテーマとなります。

州の政策に注視
 
 一方、このような政策との関係は、国全体だけではなく、どの州の企業を買収するかによっても異なります。日本の場合は、どの都道府県の会社を買収したとしても、それほど大きな違いはありませんが、米国の場合は、州ごとに規制が異なるので、買収を検討する際に、「米国の会社」と画一的に見ることは危険な場合があります。

 例えば、カリフォルニア州の場合、環境に関連する規制が厳しく、その環境規制を遵守するために、同州における工場ではより多くの設備投資が必要になるケースがあります。そうすると、結果として隣接するアリゾナ州やネバダ州に工場を持つ競合にコスト競争力で負ける、といった事例もあります。さらに同州では、差別などに対する従業員関連の訴訟が他州と比べて相対的に多いといったこともデータとしてあります。

 一方、テキサス州やフロリダ州では、州の個人所得税をゼロにして、他地域からの移住を促して、成長率を高めています。そのような地域で事業を行う会社を買収する際には、売り手側から成長性が高い点も考慮して、企業価値の計算を求められたりもします。

 このように買収を検討する際には、対象会社が所在する州の特徴も含めて検討する必要があります。

今後取るべき対策

 それでは、日本企業による今後の対米国M&Aは、今後のトランプ政権の運営によって、どのような影響があるでしょうか。

 まず、一つには、トランプ政権の「アメリカファースト」の政策から、一部の輸入品については関税強化を推進する可能性があります。そうすると、米国に製品を輸出している一部の業種においては、現地企業の買収を検討するケースが増えてくる可能性があると考えています。

 一方、トランプ政権発足に伴う株価上昇などによって、非公開企業の買収においても、買収金額が高過ぎるのではないか、と思うケースが増えているように見受けられます。従って、適正に企業価値を評価しても、オークションプロセスで敗退するケースが一時的に増えたり、売り手の売却価格目線が高くなることにより、買収金額で折り合わないケースが出てくる可能性があります。

 今後、税制改正の方向性が明らかになり、米国企業の海外内部留保が米国内に還流してくると、元々、投資ファンドの投資余力も過去最高水準で、買収資金を調達する借入金利も低い水準で推移していますので、M&A自体は活発化する一方、高めの取引金額になる案件が増えてくるのではないかと考えています。

 また中国企業の北米をはじめとした海外投資が、中国政府の政策上、今年になって抑制されていることも間接的な政策の影響と言えます。規制当局が買収による中国企業の負債増加を嫌気して、買収自体を差し止めるような事例が出ており、実際に、オークションで中国企業が一番高い札を出しても、案件完了の不確実性から他の買い手と契約するケースも出てきています。

 そういう観点からは、日本企業にとっては、北米のM&A市場でのプレゼンスを向上させるチャンスでもあると思っています。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、セージェントアドバイザーズ社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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