2017/08/25発行 ジャピオン930号掲載記事

第3回 企業買収の成否

徹底した企業調査が
成功と失敗を分ける

 M&A(企業買収)の中には大成功した事例もあれば、残念ながら失敗したと言わざるを得ないものもあります。

 M&Aが失敗する主な理由としては、①「高値づかみ」すること②買収後の企業との融合がうまくいかなかった、といったことが挙げられます。

高値での買収の意味
 
 「高値づかみ」してしまう要因としては、楽観的過ぎる将来の見通しに加えて、「絶対にこの買収をやり遂げないといけない」というプレッシャーのようなものもあります。例えば、企業のトップから「絶対に買収しろ」と言われると、担当者としては、オークションで負けないように、できるだけ高めの価格を提示するインセンティブが働いてしまいます。実際、私も「そこまで高い金額で価格提示しなくても十分ビッドに勝てると思います」と依頼主にアドバイスしたこともあります。そのときも「こちらには勝たなければならない事情がある」と逆に怒られてしまいました。

 逆に売り手のアドバイザーに就いているときは、できるだけ高く買ってもらおうと他のビッダーとの競争環境を作り出します。そうすると、1社だけ、突出して高い金額でビッドしてきたり、また、「あと、〇億円価格を上げてくれれば契約締結に応じる」などと言って、さらに価格を上げるように交渉することもありますので、こういう要素も買い手が当初予想したよりも高い金額で買収してしまう一因であるかと思います。

 ただし、「高く買ったから絶対にダメ」というわけでもありません。買収する企業の中には、自分たちがどんなに努力しても絶対に手に入らないような技術やノウハウ、販売先を持っている企業もあります。どうしても高い価格を出さないといけないケース、また従業員や経営者が株主の場合、相手の言い値で買収することによって、買収後の融合に好影響を与えているケースもあります(もちろん程度はありますし、買収後のマネジメントができる自信があることが前提になりますが)。

買収後の融合
 
 一方、価格以上に日本企業が苦労しているのは、買収した企業のマネジメントや従業員との融和であるように思います。M&Aを行う理由の一つは、その会社で働く優秀な人材を獲得することです。設備投資をしても、そこで働く従業員を採用するのは時間がかかり、好条件を出さない限り短期間での大量の採用は難しい。M&Aであれば従業員も一緒に獲得できるので大きな資産の一つになるのです。

 せっかく買収しても、経営陣や従業員とうまくやっていけていないケースもあります。要因は日本式のマネジメントスタイルをそのまま押し付け幻滅させる、言語面の障壁、買収後のポジティブな変化を示せない、といったことが挙げられます。

 多くは「自分たちが相手企業から何を得られるか」にフォーカスして買収を検討するわけですが、逆に買収で「対象企業に何を与えられるか」というパートナーとしての視点の方が重要です。例えば、自社で保有している技術を対象会社に提供し、マネジメントもそのメリットを理解することができれば、従業員に対してもポジティブな発信を行うことができますし、結果として、従業員も新しい買収先に対して好印象を持つという好循環が産まれます。

成功の鍵は「DD」

 このように、「高値づかみ」を防ぎ、買収企業との融合をスムーズに行うためにも、買収前に企業調査(デューデリジェンス=DD)は徹底的に行う必要があります(ただし、対象企業のマネジメントや従業員が買収後も対象企業に残り続ける場合、あまりにも常軌を逸するような細か過ぎるDDを行うと、その印象が対象会社側に強く残ることがあるので、相手の立場を踏まえながらのバランスも必要です)。

 買収後に、「想定していないような新たな設備投資が必要になった」「訴訟が起こり思わぬ支払いが発生した」「工場の土壌汚染が見つかって、その改善費用に莫大な費用がかかった」など、思わぬコストが生じるケースがあります。それを最小限にとどめるような調査はきちんと行っておく必要があります。

 また、会計や法務のDDを行って、会社の状況を知ることも大切ですが、それ以上に、例えば対象会社のオフィスや工場を訪問した際に、裏方の控室がきれいに整理整頓されているか、従業員がどんな顔をして働いているか、経営陣・従業員間、従業員同士のコミュニケーションが取れているか、マネジメントがどのようなことを考えて経営を行っていて、新しい買収先に何を求めているかなど、資料だけでは分からない点の確認も重要だと思います。

 今まで私が買収に関与した事例の中には、企業を買収して5年くらい経って、買収効果が出てくるケースもありました。買収して2、3年で結果が出ないとすぐに「このM&Aは失敗だった」とらく印を押すケースがありますが、特にクロスボーダーM&Aの場合で、かつ、初めて海外の企業を買収するようなケースだとお互いの考えていること、持っているノウハウ、企業カルチャーの融和など、本当の意味で理解するのにある程度時間が必要ですので、長い目で見ることも必要なのです。

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 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、セージェントアドバイザーズ社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

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