2017/07/28発行 ジャピオン926号掲載記事

第2回 M&Aの最新動向

日本企業の買収
北米を狙う理由

 M&A(企業買収)の近年の世界的な潮流としては、件数、金額共におおむね上昇傾向にあると考えています。

 今年になって、中国企業による北米企業への投資が大幅に減少しているといった一時的な減少傾向にはありますが、一方で世界的に企業が保有しているキャッシュ残高は高水準で推移しています。それぞれの年の景気の好不況による多少の波はあるものの、基本的には今後も増えていくでしょう。

 日本企業の北米企業に対する買収の検討についても、リーマンショック後の2011年、2012年ごろから増えてきています。経緯としては、日本企業が長年の不況を経て業績が回復してきたこと、当時は円高になって、円ベースでの買収金額が低くなったことなどがあります。日本企業においては、円建てで取締役会等での意思決定をするケースが多いため、どうしても円高である方が、企業としても、価格的に意思決定を行いやすく、結果として、M&Aが増える印象を持っています(例えば、1億ドルの買収金額の案件の場合、1ドル120円であれば、日本円に換算すると120億円の案件になるのに対し、1ドル80円であれば、80億円になります)。円安に振れている年は、若干減少することもありますが、日本の上場企業の内部留保が過去最高水準であり、今では、多くの企業がM&A用の投資枠を設定していますので、今後も日本企業による北米投資は増えていくことが考えられます。

買収の目的の違い
 
 日本企業が北米企業を買収する理由・背景としては、技術の獲得を目的とした買収に加え、やはり国内市場の伸び悩みを背景として、北米市場でのマーケット拡大を企図した買収が多いように思います。

 例えば、アジア企業を買収する際には、販路拡大を目的とした買収が多く、ドイツ企業を買収するのは、技術力の獲得を目的とする製造業のケースが多いといったように、地域によって特徴があります。その点、米国企業の買収は、技術獲得のケースも、販路拡大のケースも両方あるため、さまざまな業種の企業が北米企業の買収を検討することができ、件数ベースで他の国をはるかに上回っています。

 買収される米国企業側も日本企業に対して、総じて良い印象を持っていることが多いです。例えば、製造業の場合、日本企業の技術力は一般的に高いので、買収によって高い技術を獲得できることを相手先企業は期待しています。

 また、投資ファンドが保有しているような企業の場合、利益をかさ上げするために、最大限にコスト削減を行って、設備投資なども抑制しますので、事業拡大のチャンスがあるのに、投資できないと思っている企業が多いのが実情です。そのような場合は、日本企業の買収後に、資金的なサポートを期待する企業も多いように思います(逆に言うと、買収価格を検討する際には、そのような設備投資費用もあらかじめ見積もる必要があります)。

米国企業が抱く印象
 
 日本企業に対する印象としてネガティブなものは、多くの米国人・米国企業が意思決定がスローであることを挙げます。これは良くも悪くも、日本企業の多くが、意思決定をトップダウンではなく、ボトムアップで行うため、検討に時間がかかってしまうからです。特に案件を取り組むかどうかを決める最初の部分で多くの時間を要するケースが多いように思います。

 また英語に苦労している企業が依然として多いのも事実です。欧米では年間に数件のM&Aを行う企業も珍しくありませんが、日本企業の場合、年間に数件のクロスボーダーM&Aを行うことは非常に稀だという印象を持っています。その要因の一つは、クロスボーダーM&Aの対応ができる人材が足りていないということが大きな要因ではないかと考えています。

 一方で大企業に取り込まれることを恐れる米国企業もあります。特に今まで自分たちで経営してきた会社が大会社の傘下に入った結果、自由な経営ができなくなることを恐れるわけです。特に、日本企業の場合、経営管理が細かい面もありますから、自分たちのやり方を押し付け過ぎると反発を招くケースもあるようです(一方、全て現地任せにしてしまう事が良いとも言えませんが)。

 とはいえ、日本企業も経験を積み、クロスボーダーを含むM&Aのスキルは確実に向上してきています。それに伴い、日本企業がアドバイザーに求めるものも変わってきているように思います。

 私たちアドバイザーは、企業の価値評価や案件のプロジェクト管理ももちろん行いますが、それに加えて、売り手の考えや競合ビッダーの有無、業界の知見などの情報提供を期待されるケースが増えてきています。今後を展望するにあたっても、日本企業による北米企業のM&Aは増えることはあっても減少することはないと思っています。

□ □ □

 当コラムは、筆者の個人的見解に基づいた意見であり、セージェントアドバイザーズ社の総意の見解ではありません。

後藤里史

後藤里史

大和証券グループの資本業務提携先であるSagentAdvisorsにて、主に日本企業が北米企業を買収する際のM&Aアドバイザリーを担当。大和証券入社後、財務部、留学、経営企画部を経て2008年よりM&Aアドバイザリー業務に従事。東京都出身、慶応大学商学部卒業、コーネル大学MBA修了。

NYジャピオン 1分動画


利用規約に同意します
おすすめの今週末のイベント