第31回 スポーツビジネスの教育


普通の業界とは違う
特異点持つビジネス

このコラムでは、プロスポーツ運営の裏側やスポーツをビジネスとして捉える考え方を紹介し、皆さんのビジネスのヒントしていただくことを目的にしています。それ故に、スポーツビジネスは「学問として体系的に学べる場所があるのか」「MBAのスポーツ版なのか」といった質問をよくいただきます。

スポーツビジネスを学ぶ「スポーツマネジメント」を解説しますと、「スポーツ界に存在する、特異な点に沿って経営をする際に必要な知識を得る学問」ということができます。「特異な点」とは、例えば一般には職業選択の自由があるのに、プロスポーツでは、なぜ入るチームを決められるドラフト制度があるのか、普通に商品を購入する際、熱狂して大声を上げながら買うことはないのに、スポーツの試合という「商品」の消費者はなぜ熱狂するのか。さらに、勝つか負けるか分からないものを商品にするとは、どういうことかといったことです。

発祥の地へ留学

私が渡米したのが2002年です。近年、日本でもこの学部や学科を持つ大学が増えましたが、当時の日本では、スポーツマネジメントを学べる大学がなかったため、この学問発祥の地、米国への留学を決めました。現在、日本にスポーツマネジメントの考えが伝わって30年程度。米国では約80年前にオハイオ大学やマサチューセッツ州立大学でスポーツマネジメントが学問として確立されました。それ故、米国でのスポーツビジネス界で起こる問題が、時差を経て日本に入ってくることもあります。

学問として成立した背景には、米国ほどエンターテインメントにあふれる国はないという状況と、スポーツフランチャイズの移転が多いことが挙げられます。

欧州ではサッカーを始めとするスポーツクラブは生活の一部として根付き、おじいちゃんからお父さん、孫までが地元クラブで運動をしたり、トップチームを応援する構造があります。つまりビジネス的なテコ入れをしなくても、継続可能な歴史と文化があります。そのためチームが移転することはまずないわけです。

一方、プロスポーツの成り立ちが違う米国ではチームの移転は日常茶飯事です。新しい場所に移転したら、当然新しくファンを獲得する必要があり、既存のスポーツチーム、他のエンターテインメントと競合することになります。そういう中で、ビジネスとしてチームを確立させる方法と概念から、「スポーツマネジメント」というものが学問としても生まれました。

日本の現状

日本でもJリーグの創設とともに、スポーツマネジメントの考え方を取り入れる機運が高まりました。それまでは「体育」の延長と見なされることが多かった競技を、ビジネスとして発展される必要があり、いろいろな大学が、この学問を教えるようになりました。

一方で、直面する問題があります。一つは新しい分野であるために、学問的に教えられる人材が限られてしまうということです。

もう一つは、この学問を学んだ後の就職先を探すことが容易ではないということです。これは日米に共通することですが、さまざまな競技があるといってもプロ、アマ問わずビジネスとして成り立っている球団は世界でも限られた数しか存在せず、そこに就職をしたいと考える人が集中します。

そうすると雇用側と、被雇用側の力関係が一方的になってしまいます。そのため、賃金交渉のレバレッジが被雇用側になかなか生まれないことが、今後解決しないといけないポイントであると思います。例えば金融業界であれば、金融に関係した業種や会社はたくさんあります。そのため逆に優秀な人を獲得したい雇用側と、選択肢が多い被雇用側の力関係はある程度バランスが取れるわけです。

今後の発展

米国では、チームへの貢献度に応じて、フロントスタッフであっても年俸が選手を上回ることがあります。ピッチ内の選手に対して、球団を運営するフロントもチームを勝たせるためのピッチ外の選手という概念があるからです。

日本でも、政府は未来の基幹産業として育てるものの一つにスポーツビジネスを挙げています。日本のスポーツ界でも最近は、球団を運営する人材の育成、またそうした人材への投資という話題がよく出てきますから、この部分は今後、日本でも同様になることを期待しています。

今後、ますます注目されるスポーツマネジメントという学問。もしご興味があればお気軽にお問い合せください。